ちょ、そこ詳しく
「おはよう、小太郎。今日はいい天気だな」
「…(コクン)」
「ん? なんだ…? 今朝はやけに距離が…」
「……(シュッ)」
うわあ! と声が廊下から響く。
…あれは前田だな……小太郎、一体何を投げたんだ? 仲良くしような、仲良く。
…こら、首を振らない。
幸いにして二日酔いも無く、清々しい目覚めで迎えた朝。いやー昨夜は失礼した、と運んでくれたらしい前田に詫びれば「あんた、余所で酒飲むの止めと…いや、うん。何でも無い」と、視線を逸らされた。…気になる。
それはあれか、この小太郎の距離感に関係あるのだろうか…(必ず前田と俺の間にいる、そしてやたらと距離が近い。まるで雛を守る親鳥のよ……ってこの場合、雛は俺ではないよ、な? 俺は親鳥希望だぞ?)
朝餉も済ませ満腹になり、食後のお茶を頂き他愛も無い話で盛り上がっていると「そう言えば…」と前田が思い出した様に口を開いた。
「アンタ達は何で此処にいるんだい?」
それはごく当たり前の疑問であり、俺が最も答え難い質問でもあった。
さてどう答えようかと見回すと、翁はニコニコと茶を啜り、小太郎は―――ジッと俺に視線を注ぎ“待て”の姿勢。…はあ。
「…家出、だ」
いや、この歳でこの答えは無いとは思うんだが、これしかないんだ。しかし、いざ口にすると何とも恥ずかしい…まさか家出してきました等と正面切って言う日が本当に来るとは思わなかったな。
翁は薄々感づいてたのかそれとも小太郎に聞いたのか、驚きもせずニコニコとまた茶を啜って…咽ていた。しかしそうはいかなかったのが前田で、パカッと口を開け顔全体で驚きを表現してくれている。ああ頼むからそんな目で見ないでくれ…。
ああ、うん、居た堪れない。
「え、あ…その何と言ったらいいか」
「頼む…深くは聞いてくれるな」
「(凄く、気になるんだけど)」
「何の事は無い、只の兄弟喧嘩さ――」
詳細は、語らんぞ、
と、まだ聞きたそうにしている前田に釘を刺した。モゴモゴと「兄弟喧嘩…ケンカぁ? 松永久秀が…ぁ?!」と言っているが無視を決め込んだ。
…そういえば此方にお世話になって暫く経つが、あちらは一体どうなったのか。久秀の事だ、大人しく帰りを待つ等という思考は持ち合わせていない筈だが…。
「――…ああ! なるほどだから、」
「?」
突然声を上げた前田。
すわ何事か、と首を傾げる俺達の前で語るその内容に―――ピキリと固まった。
「その話、詳しく聞かせて頂こうか――」
ひくりと口端が痙攣し、思わず詰め寄る。
いかんいかん、顔が強張っている様だな…前田の顔色が悪い。
安心しろ、悪い様にはしないさ。
欲しがったりしないから話を聞かせてくれまいか?
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