初めましても一苦労



翁、翁、何故この場に俺を呼んだのか是非ともご説明頂きたい。いや、そんな微笑ましい笑顔で見られても意図がさっぱり伝わりませんよ。俺はただ、お茶うけを持って来ただけの筈だったんだが…。


「あー…、初めまして」
「! ……あ、俺は前田慶次…」
「松永秀長だ…」


端から見たらまるで見合いの席で初めて会う男女の様に、俺達はぎこちなく頭を下げ合った。


――かっぽーん。


いかん、脳内で相応しい音まで聞こえた気がする。
…やはりこの後は「ご趣味は何ですか?」とでも聞くべき何だろうか? それとも「本日はお日柄も良く」が先だっただろうか……ん? それは仲人だったか?



翁の客人は前田慶次と名乗る青年だった。


見た目は…一般的な見方からすれば派手と思われる若者。そんな若者が気まずげな表情を作ったまま忙しなく視線を彷徨わせ、何か言いかけては口を開き、俺と目が合うと途端に眉を顰めて俯いてしまう。
…正直言って凄く、もの凄く気になる。もじもじと落ち着かない若者は恥ずかしがり屋なのか?


「…すまんが、俺は何か君に拙い事をしてしまったんだろうか」


どうにもいたたまれなくて、気付かずに不快にさせたなら悪かったなと、情けなく笑いながら耳の裏を掻いた。ついでに、誤魔化す様に笑いも添えて。…取りあえず笑っとけば良いだろ。なんて、呑気に構えていると。


―――ふらっと、長い髪が揺れた。


…と思った瞬間、ズザザーッと突然後退りし視界から消えてしまった(…胡座の体勢から後退るなんて器用な男だ)

は? と一瞬何が起こったか分からず驚く俺と対照的に、前田は可哀想な程顔色が悪くなっていく。


「ふぉふぉふぉ、だから言ったぢゃろう。ちいとばかし覚悟が必要ぢゃと」

「うん、充分なほど分かったよ、じいちゃん…」


怖気が走ったように一度震えた前田が、可笑しさを堪えきれないといった翁とヒソヒソ話し出す。
困惑の表情を浮かべたまま放置されてしまった俺は、二人を眺めながら少し温くなった茶を啜った。…翁を「じいちゃん」と呼ぶほど親しいらしい二人には事前に何らかのやり取りがあったと見える、が、蚊帳の外状態の俺には状況がさっぱり分からん。…頼む、誰か説明してくれ。


…それにしても、この前田慶次という青年。何処かで聞いた事があるような無いような…こういう喉の奥に小骨が引っ掛かっているみたいな感覚はどうにも気になるな…。

はて何処でだったかな? …と首を捻り腕を組んでいると、


「―――あ、ごめんよ! 別にアンタが悪いとか、顔がどうとかそんなんじゃ」
「は?」
「ないん…、え?」


あわあわと一人狼狽えながら謝罪の言葉を述べられても――…まあ、なんだ、


「取りあえず落ち着け」


ずいっと、冷めてしまった茶を勧めた。

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