デジャヴ
―――ゆれる、ゆれる。季節の節目。
ふらふらと花に誘われる蝶の如く。あと少し、もう少しで咲きますから…と各所に薄紅色の蕾を抱いた木々の間を通り過ぎる。
途中顔見知りになった人達に頭を下げられながら…これは此方も返すべきだよな、と逡巡し会釈を返した。初日はこれで固まられて大分困ったものだ。
桜の名所なのだろうか、小田原は桜の大変多い城で。お邪魔してから日々色の濃くなってゆく蕾達に卒業の季節だと思い出した。遠い昔の記憶だが、季節と結びつく事柄故どうやら覚えているらしい。
人間は忘れる生き物なのにふとした瞬間思い出す懐かしさは――、少し切ないな。
この一週間ほどで通い慣れた道を歩むと土産の饅頭から香る甘い匂い。栄光門まで、あと少しの所まで来ていた。
「あ、」
首が痛むほど見上げねばならない門の手前まで来ると、見慣れた影が腕を組んでいる姿を発見。声を上げた。そのまま、開かれた門を潜り抜ける前に目の前に着地した彼に首を傾げる。
「ただいま、小太郎」
音も無く着地して見せた小太郎に呼びかける。すると常なら頷くなり何なりしてくれるのに、じっと俺の顔を凝視したまま時が止まる。
…門番の視線が痛いんだが。
「おーい、小太郎?」
「……」
「こたろ…」
「………」
「こた……」
「………(プイッ)」
どうしよう。
何だか怒っている様だ。
無言の責めに、視線が左上に。
そういえば今日は一人で城下まで行ってきたな。もしかしてそれで怒っているのかも知れない(否、絶対そうなのだろう)
…言い訳として挙げるならば出かける前に小太郎を探したし、翁にも出かける旨を伝えてある。それに、無理に呼び出して付き合わせるのも悪いかな?と思い一人で行ったんだが…。
「あの…」
「……」
「……」
「……」
「…くっ、…俺が悪かった」
間違いだったらしい。
降参だ。俺には耐えられん。これ以上小太郎からの非難に―――、
すまなかったと謝れば未だムスッとした雰囲気を醸し出しながらも、頷いてくれる。
…なんて良い子なんだ。すまん、置いて行って。…若しかして置いて行かれると不安にさせてしまったのだろうか?
「あのな小太郎」
「……(チラッ)」
「別に、置いて旅立ったりしないぞ?」
俺が小太郎を置いていくわけないだろ? と安心させるように言えばブンブン首を振られる。どうやら全く違うらしい。では何でだろうと更に首を捻って居ると、
「――…はぁ、」
…溜息を吐かれた。
何だか前にも同じ様な事があったなあ。
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