いらっしゃいませ


(side甘味屋の看板娘)


「あ、いらっしゃいませ! 今日はお一人ですか?」

「ああ、…空いてるかな」

「はいっ! もちろん、」


暖簾から窺う姿にくすくすと笑いが込み上げ、空いてる席へとお通しすると穏やかな声にお礼を言われる。注文を取って奥へと小走りに駆けこむと、おっかさんが呆れたように笑いながらお茶を入れて待っていた。


「お出でなさったのかい? アンタのお気に入りのお侍さん」

「やだおっかさん、そんなんじゃないわよ」


もう、と頬を膨れさせてお団子の皿と一緒にお盆へ乗せて、くるりと背を向けた。


「おまたせいたしました」


店の通りに面した席。格子窓から大通りも見える端の席…その席が気に入ったって以前聞いてから、其処はこのお客さんの為に空けておいています。本人には内緒ですけど。

熱いお茶に手を伸ばして冷ます姿が少し可愛く見えて。また笑いが込み上げてきた私は、お盆で口元を隠しながら新たなお客さんを迎えるために、席を離れて行った。



“窓際のお侍さん”


一週間程前からこの界隈に顔を出すようになったこのお客さんは、最初こそ異様な風体だったけれどとても感じの良い方でした。その印象は今でも変わりません。

うちのとうさんより年上の方だと思うんだけど、…見目が良いから一緒にしたら失礼になっちゃうわ。きっと。

いつも落ち着いた色合いの着流し姿で、それがとても良くお似合いで…ぱっと見はお侍さんには見えないのよね。刀も差して無いみたいだし。…お役御免になってしまったのかしら…心配だわ。

今日はお連れでないけれど、いつもはお付きの方(?)がいらっしゃるの。とても無口な方だけど、多分良い人だと思うんですよね。だって、お客さんがとっても柔らかい顔で笑いかけてるんですもの、間違いないわ!


「ごちそうさん」


思い返しているうちに食べ終わってしまったみたい。それを見計らって、おっかさんが包み終わった品物を持って奥から顔を出すのを受け取った。ほんと、何をしている方なのかしら、いつも沢山お土産を買っていくのよね。ご贔屓にしていただいて、うちは嬉しいんだけど。


「いつもありがとう御座います、はい」

「なに、…此処の甘味が美味いからさ」


ちゃりっと手渡しされたお代。
…いけない、思わず落としてしまう所だったわ。

ご馳走さん、と優しく目元を緩ませて笑った顔が本当に素敵で。見惚れない方がおかしいと思うのよ、年頃の娘がはしたないとは思うけど…しょうがないでしょ?



「すいませーん、お団子包んでくんない?」


暖簾の向こうにお侍さんが消えていく。
次に顔を出した馴染みのお客さんの声で我に返っても、頬が熱い気がするわ。


あれくらい良いヒト、何処かにいないかしら…

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