02


"鏡"とは、
彼の様な存在を言うのだろう




"本能と欲望の儘に"

そう忠実に行動し、実行に移してきた松永にとって"松永秀長"という存在は、不可解な理解者だった。幼き頃より、彼はこうなのだと分かっていても…。今回も松永は結局、己が弟の欲しがる姿を拝めぬまま北へと赴いてしまった。(だが、別段腹は立たない)

「気をつけてな」等と手を振る姿は、同じ女の腹から生まれたとは思えぬ程に浮かべる表情は違う。

――…例えるならば、天と地という程に。


薄く笑みを浮かべる松永と違い、柔らかく、いっそだらしないと言える程の笑みを浮かべる秀長。

表に立つことを良しとせず、陰で松永軍を支え、松永自身とはまた違った意味の尊敬の眼差しを受ける秀長。

(────その眼差しの大半は、松永自身が何でも与えようとする行動から来るものだが、本人達は気づかない)


何にも執着を見せることはなく、ただ与えられる儘に受け取るでもなく──、突き返される事など数え上げればキリがなかった。
(その際、実に豊かな表情で嫌そうな顔を見せる)


"一度、あれが欲しがる物を贈ってみようか"

"一度、あれが本当に欲しいと思う物に興味があるな"


そう考えた松永は己の欲望を満たすために行動し、実行しているのだ。
あの松永久秀が、だ。


「仕方ない、奥州の独眼竜が持つという竜の爪とやらを頂くとしようか」

持ち帰った時の表情を想像し、松永は楽しげに喉を鳴らした。




「欲しい物、ねぇ…、」

久秀が城を出立し早くも一月、時間が空けばぐるぐると急降下していく思考に舌打ちをし変わらず日を浴びる。


不慮の事故で命を落とした訳などでもなく、気が付けば戦国BASARAの世界に転生…なんて馬鹿らしい話、実際に遭ってみれば笑い話にもならない。
しかも寄りにもよって松永久秀の弟。
しかも双子だなんて…、


ああ、別に久秀は嫌いじゃないさ。三好も、松永軍も。むしろ居心地が良すぎる位だ。

だが、記憶という枷がそうした人々との距離を生み、つかず離れずという関係を保っていた。


これは夢、この世は幻。

そう考える自分が何処かで自制し、手に入れた瞬間に消えゆくモノという思いが予防線を張り巡らす。臆病者と罵られても構わないさ、


"何も欲しがらない"

それが一番楽で、傷付かない生き方だった。



("欲しいモノ"など、俺には答えられない)

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