お邪魔します
「改めまして松永秀長と申します、…突然お邪魔して申し訳ない」
「なんのなんの、そう硬くならんでもよいわい。ふぉっふぉっふがほげほっ……すまんのう風魔」
「…(さすさす)」
「……まご…」
「…ん? なんぢゃ?」
いえ、と曖昧に誤魔化して口元を急いで隠した。危うく「祖父と孫みたいだ」と言いそうになった…小太郎がここで「それは言いっこなしよお爺ちゃん」とか言ったら様に為りそうな……いやそれでは町娘じゃないか。
―――あれから硬直の取れた氏政公と共に、改めて挨拶をする為に通された一室でお茶なんか頂いてしまっている。
土産は大好評で「わしだけじゃ食いきれんのう」の一言でご相伴に与る事となった。
コレが実に美味い。
後で女中さん達にも届けて来よう。
「…ん、小太郎が入れてくれたのか」
「…(コクン)」
もごもごと饅頭を咀嚼してから一口頂いたお茶…その味に覚えがあり、もしやと聞いてみると小太郎が嬉しそうに頷く。…速攻で。
あちらでは小太郎が入れてくれる物ばかり飲んでいたからな、すっかり味を覚えてしまった様だ。…対抗する様に久秀も茶に誘って来るが、あれほど気が進まない物は無い。
(…俺はもっとのんびり飲みたいんだ…まあ、悔しいが美味いのは否定しない)
ほくほく顔の氏康公の隣には、ちょこんと正座した小太郎。どうやら好物なのは氏政公だけでは無いらしい、…空気が動く度に饅頭が一つ皿から消えていく。
「うまいのう〜」
「うまいですね」
「…(むぐむぐ)」
いやいや喜んで貰えて、何よりだ。
「―――ところで…むう、何と呼んだら良いか悩むのう…」
「どうぞ秀長と、俺も翁(おう)とお呼びしても?」
「ひょっひょっひょっ、なんぢゃ…変な感じぢゃわい」
「はあ、すいません…」
―――大方この顔でそんな呼ばれ方をされるとは思わなかったのだろう…アイツは大抵「卿」だのなんだの…まあ、まともに人を呼ばないからか。
ずずっと喉を潤していると、「おぬしらはいつまで居れるんぢゃ?」と突然聞かれ…咽た。さっと横から差し出された布巾をありがたく受け取ると、俺も小太郎に背を擦られていた。(…ん? んん?)
答えを持っていない俺はどう説明すべきか途方に暮れてしまう。……まさか兄弟喧嘩して家出してきました、等と正面切っては言えないだろう。
これからどうするか何て俺が知りたい位だしな。
一人悩んでいると、
「――…まあ、ゆっくりしていくと良いわ。風魔ものう」
とのお言葉を頂いてしまった。
本当によろしいので? と聞けばひょっひょっと機嫌良さそうに笑って、また一口饅頭を頬張って…咽た。そして小太郎が背を擦ってお茶を渡す。…素晴らしい連携だ。
その光景に目を奪われつつ、何も聞かずにいてくれた氏康公の心遣いに嬉しくなり、
「―――ありがとうございます」
感謝の言葉がするりと漏れていた。
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