逆!逆逆っ!?


(side小太郎)


「あ、しまった」

そう呟いて突然立ち止まり…何やら唸りだした人は本当にあの雇い主の弟? と疑いたくなる程…真面目な人です。


「……手ぶらだ」


一言呟き、往来の真ん中で考える様に視線を彷徨わせていたかと思えば、この世の終わりの様な表情を浮かべていた。何か拙いことでもあったのだろうか?


「…?(コテン)」

「いや、…お邪魔するのに俺としたことが何も持ってないだろ?」

ほら、と差し出された空手の手のひらを見せられる…確かに旅をするには少々軽装過ぎる(…鎧は何処に置いてきたんですか)が、それもあの状況ではいたしかたないと思う。必要なもの等は後で揃えればいいと思うし、それが不可能ならばこの人の為に己が調達すれば済む事だ。(元々そうするつもりであったし)

そう思い更に首を傾げれば、違うと首を振る。


「あ〜要するに、…お土産が、無い…」


…成程そういう事か、とこの人"らしさ"に出る筈のない音が溢れそうになった。

そんな事気にしなくとも、氏政公ならば快く迎えてくれると思うのだが…恐らく自分がそれでは嫌なのだろう。



今の雇い主、松永久秀の弟…松永秀長様

そっくりそのまま、鏡から写し取った様な二人はその姿とは対照的に考え方も違う…と思う。(そもそも、あの男にはまともな土産など存在しない)

松永久秀が奪う側ならば、与える側になろうとする人。同じ様で違う、違う様で同じ人。

もし、――…もしもこの人がたった一人で敵地に足を踏み入れたとする、すると忽ち「あの松永だ」と間違われ囲まれてしまうだろう。


…だが、


「どうしたんだ、小太郎」

ジッと見つめたまま、反応を返さない己を呼ぶ声も表情も…松永久秀より柔らかい。

(こんな表情、あの男には浮かべられはしない…何故見ただけで皆分からないのだろう)


「…なんで笑ってるんだ?」

もしかして面白いのは俺か? と眉根を寄せて見上げてくる顔は間違いなく瓜二つ。歳とて、己よりも大分年嵩である筈だ…、


……だというのに、


何だろう……、


何だろう、この放っておけなさは…――、



以前垣間見た…いざという時の恐ろしいほどの強かさ、あの松永久秀も目を見張る程の策士振りを発揮されていた秀長様。…その片鱗は今は全く窺えない。

指折り数えて女中全員分まで買って行きそうなこの人を止めつつ、氏政公の好物を教えてあげれば、

「ありがとう」

嬉しそうにそう言って…店と逆方向へと走って行ってしまう。


「……」


…本当に、真面目で放っておけない人です。

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