癒し再び
「どこか落ち着けるとこ無いか?」
心臓に悪い出会いを果たした俺には、ハッキリ言って休息が必要だった。
賑やかな声
穏やかな雰囲気
幸せそうな笑顔
「ここが…」
ぐるりと周囲を見渡して感嘆の声を漏らすと、嬉そうな雰囲気が傍らから伝わる。それだけで来て良かったなと思えるのだから俺は自分が思っているよりも小太郎が可愛いらしい。…甥っ子とかいたらこんな感じなんだろうか?
いいな…久秀に全く似てない甥っ子とか欲しい、…話がそれたな。
別段行くところも思いつかない、行く当ても無い俺は普段の引きこもり(城から出ると色々厄介だからな…)もあってか本当に立ち往生してしまう所だった。
小太郎が居てくれて本当に良かった…頼りなくて申し訳ない。
「しかし…本当に俺なんかが来ても良かったのか? 迷惑にならないか?」
北条氏が治める小田原は、久秀に雇われる以前から小太郎が凄くお世話になっている人が居る場所だという。…つまり、コレは実質的な里帰りじゃないのか?そんな大事な所に俺なんかを連れて来ていいのか?と道中何回も聞いたんだけどな…、
「…(コクリ)」
袖をガッシリ掴んで離して貰えなかった。
まるで散歩に行こうと強請るわんこみたいなその仕種に思わず笑いそうになったのは、しょうがないよな。
案内する様に袖を引く姿はすっかりそこらの青年と変わりなく、見たこと無い町民姿の小太郎は小田原の雰囲気に溶け込んでいる。
帰って来たのが嬉しいのか、少しだけ持ち上がっている口元はその形を保ったままだ。
そんな小太郎を見ているとこっちまで自然と笑みが浮かんで…、
…、
……、
……お、おおお、なんだこの半端ない癒しは。
普段が普段なだけにこの癒し展開に目が霞みそうになる。いかん、年の所為か最近涙もろいみたいだ。
小田原城に着くまでに何とかしないとなあ…。
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