予想外
こんな時、久秀ならどうするか。
頭に浮かんだ考えは直ぐに吹き飛ばされた。
「面白いひとですねえ、アナタは」
もしかしたら、あわや戦闘に突入か…等と身構えそうになっていた俺の考えを裏切って男は、どう見ても明智光秀(仮)は機嫌良さそうに話しかけてきた。
「実に、…美味しそうなのですがねえ、今は我慢いたしましょう」
「…嬉しくはないが、」
「おやおや、ご機嫌を損ねてしまったようですね」
ククッと喉を震わせて此方を窺う表情に首を傾げた、今度は疑問を含ませて。
あと一歩、あちらが踏み出せば小太郎が飛び出すかも知れない…それを避けたい俺は為らばと、自分から一歩踏み出し影から光へと姿を現した。
「…良い、表情ですね」
実に嫌そうな顔です、そう言って鎌をだらりと下ろした。
敵意無し、と見て良いのだろうかと更にまた一歩距離を詰めた。野生の獣に近づく気分なのは何故だろう、
「“初めまして”私の名は明智光秀――と言っても貴方はご存知だったようですが」
「ああ、残念ながら」
「おや、これはつれないお返事ですね、」
にたりとまた笑い、貴方の名前も伺いたいのですがねと何故か催促される始末。
…こいつ、もしかして、
「俺達の判別が付いているのか?」
眼を見開いて見上げれば、コテリと首を傾け不思議そうに口を開いた。
「貴方とは、初めてお会いしますね」
…え? もしかして久秀には会ったことが無いのか、と思ったのも束の間で、
「松永久秀は存じてますが、」
一瞬このまま久秀として別れてしまうのが無難(安全)かもと思った儚い思いも無残に散っていった。
「松永――…秀長、だ」
やっぱり判別付いてるんじゃないか…と米神を抑えながら名を告げる俺は、多少動揺しているのかもしれない。
初対面で見分けられたのは、小太郎以来――…始めてだったからだ。
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