遭難者一名?いやいやいや、


「…参ったな」

一人呟いてみれば虚しく声が、夜空に融けていった。


 ・右を行く
 ・左を行く
→・真っ直ぐ行く


(さて、どれを選べば良いのやら…)

立ち往生する事で消費される時間が勿体無く感じられるが、こういう時はヘタに動き回るのは危険な気がするな。

月は昇っている…はずだというのに空を覆う翼の如く、木々が光を遮断した其処は正に魔の森。とでも今の気分で言ってしまおうか(ただの裏山も己にかかれば魔境に変わるらしい)


いらぬ茶目っ気(御披露目云々)を発揮して下さりやがりました兄、久秀の魔手(衣装替えの危機)より怒り心頭で家出(城出?)宣言し、逃げ出した俺がまず選んだのは城の裏手の山。

城下へと降りるか逡巡したが、流石に城主の面は割れてなくとも目撃証言(無意識に手渡されたあの陣羽織を着てしまっていた俺、この白黒のツートンカラーは流石に目立つと思う)が上がるのは目に見え、此方の方が良いだろう。そう考えたのだが、

ああ、勘違いしないでほしい。

遭難しているわけでは断じて無いさ(絶対に)


そう、月が見え無いのがいけないだけだ。
方向音痴では無いはず…だ。


──多分


…絶対に


恐ら、く…



「…ッ、」

どさくさに紛れて連れ出していた、同伴者の名を呼びかけて踏みとどまる。
いかんな…呼ばない限り出来るだけ一人にしてほしいと…頼らないようにしたいからと彼に頼んだばかりだというのに、こんな所で躓いてどうするんだ俺は。


「――…はぁ、取りあえず適当に進めばどこかに着くだろう」


多分。
そう言いながら再び足を動かし始めた。

感だけを頼りに…、

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