01


人には、向き不向きと言うものがある。

俺には熱く理想を掲げ、戦場にて名を馳せる事も出来ない。信義に生きる事も出来ない。天下など狙う気もない。ましてや欲望のままに生き、死ぬなど似っての他だ。

本能のままに生き欲望に忠実。

欲望を満たす為ならば他者を平気で踏みにじる。

それが俺の兄、 松永久秀という男の世間一般から見た評価だろう。




「──秀長、此処に居たのかね」

やあ、なんて言いながら優雅な足取りで此方に近付いて来る姿をぼんやりと眺める。
だらしなく足を伸ばしながら、暖かな日差しにうとうとしかけていた所を邪魔され、俺は不機嫌から眉をひそめた。

それが分かっている相手は嬉しげに口元を緩ませ、真上から見下ろす位置に立ち止まった。


「この様な日の射す所で…、卿は暑いとは思わぬのかね?」

「久秀は意外と体温低そうだもんな…」

炎属性の癖に、

欠伸をかみ殺しながら言うと、何とも微妙な顔をされた。大方、同じ顔でそんなマヌケな顔をしてくれるなとでも思ってるのだろう。

なに、態とさ、


よっこらせっと年寄り臭い台詞付きで起き上がり、向かい合う。


「……卿は先日私が誂えさせた物はどうしたのかね?」

それでは何時もの姿と変わりないではないか、と今度は不満げに眉をひそめられた。


「ああ、"アレ"ね」

あんなの俺には必要無いでしょうが、

そう言って首をコキコキと鳴らせば、酷く残念そうに溜め息を吐く。…態とらしいなぁ、だってしょうがないじゃないか。"アレ"はお前には必要だが俺には必要を感じられない。


「……まあいい、所で私はこのまま北へと赴くのだが今回は何を手土産にしようか」



"卿は何が欲しい"



そう、お決まりの台詞を口にした久秀に眩暈を覚えた。城を留守にする際、こうして必ず尋ねてくる。

だから、


「───いや、遠慮する」

どんな答えを期待をしているのか知らないが何時だって、こうして用意していた答えを吐き出す。(大体、久秀が持ってくる物は、是非とも遠慮したいものばかりだ)


「やれやれ、卿は本当に無欲なのか、それとも……、」



静かに笑って去る姿を見ないように、俺はゆっくりと瞳を閉ざした。

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