本気で勘弁して


「っくしゅ、」


……。

すまん、そんなに睨まないでくれ。
湯冷めしそうなだけだ。



じりじりと周囲の包囲網が狭まる…という訳ではなく、何故か間隔を空けて取り囲み始めた松永軍。良い判断だ、というより…コレは単に久秀の醸し出す雰囲気の所為なのだろう…。

ぴりぴりっと空気が刺す様な痛みは、殺気なのか怒気によるモノなのか。


「随分と寒そうな格好だが、出かけるのであればそれ相応の旅装で行きたまえ」

「や、"それ"はいい。しまってくれ」

すっと差し出される先程投げ出してきた"それ"。拒否した途端、更に機嫌が急降下したらしい久秀。
三好達は拾ってしまったのか…そのまま捨ててしまってくれても良かったのに。


視線を逸らさず構えたまま、俺達は睨み合う。(逸らした途端、何が起こるかわからない)
どうする…こんな巨壁、俺に超えられるだろうか?(いや、超えねば末路は分かりきっているのだが)

ゴクリと喉が鳴る。
それに気付いたかの様に、久秀の口端がゆっくりと持ち上がる。


あ、ヤバいなこれ。


「どうした、出かけるのだろう?勿論、
私と一緒に「遠慮する」待ちたまえ──、」


言い終わる前に走り出す。
と今まで俺が居た場所に火柱が轟音と共に上がり周囲を紅く染め上げる。
──…それを見て、ヒヤリと肝が冷えるのを感じた。


「手段を選んで無いみたいだな」
「卿が素直になれば良いのだよ」
「…俺は素直に行動している」
「いやはや、最近は耳が遠いらしい」

ギリギリ攻撃を避けながらの会話。
そんな事が出来るのはまだ手加減されている、と思ってもいいのだろうか。
クソ…、武器が無いのが本当に口惜しい。

逃げまくる俺と巻き込まれまいと走る兵達。
それを実に愉しそうに笑って眺める久秀。

───その時、


「ぅ、わっ!」
「──ッあぶないっ!」

逃げ遅れた一人がバラ撒かれた火薬に引火した炎に包まれようとしている。
それを見過ごす事の出来なかった俺は、咄嗟にそいつを突き飛ばしてこれから受けるだろう熱を想像し、ギュッと眼を瞑り覚悟を決めた。


柔らかな風が頬を撫でても、気付かずに…

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