その気持ち、わかります
───ピー、ピピーッ
けたたましい笛の音が、静寂を打ち破る様に周囲へと響き渡る。
「秀長様をお捜ししろォ!」
「秀長様──ッ!!」
「秀長様は何処──…だーッ!!」
「───…!!」
…そんなに名前を連呼しないで欲しい。
拙い、非常に拙い事になっている──…何故、家臣総出で俺を捜しているんだ。
只今絶賛大脱走中につき、全力疾走で城内を走り抜ける俺+追いかけてくる兵、兵、兵。
こいつ等には俺を見つけ出すセンサーでも付いているのか、わらわらと出てくるは出てくるわ…。
最早ひっそりと抜けるなどという儚い願いも散っていった。
逃げようと窓より降り立ったはいいが、直ぐさま突入したと見られる三好三人衆が騒ぎ立てたお陰でこの有り様だ。
戦以外では比較的静かなこの城も、何処にこんなに待機していたのか疑問が浮かぶほど今は兵が溢れていた。
「お待ち下されー!」
「秀長様、困りますっ!」
「どうぞ松永様の元へ! お願い致しますー!!」
真っ青な顔をして必死に叫ぶ家臣達。
余程久秀の脅しが効いているのか(大丈夫だ、俺もそれは恐ろしいと思う)、位が上であろうが下であろうが俺一人に鈴生りになって追いかけてくる。
だが必死なのは俺も同じ事。
──誰が、好き好んで魔王に披露などされてやるものか。並んで芸でもしろとでも言うつもりか?
(その時の、久秀が浮かべるであろう表情を想像するだけでも恐ろしいというのに…)
チラリと後ろを伺う──振りをして前方から躍り掛かって来た二人の懐へ身を低くして滑り込む。(所謂はスライディングなのだが)
その勢いのまま、隙だらけな腹を背負い投げの要領で後方の集団へ投げてしまえば、どっと雪崩が起きる。
…もちろん、人間の。
「すまない、」
怪我などさせる気は無いが生憎此方は無手、武器を持っていない為か多少手荒な扱いになるのは勘弁して欲しい。
そう内心で手を合わせながらも、足を止めることはしなかった…。
が、
「苛烈苛烈。随分と急いでいる様だが、何処へと赴くつもりかね?」
…どうやら道を間違えたらしい。
前門の梟雄、後門の死神(部隊)という所か、…巧くはないがな。
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