実力行使とか…やってくれる
冗談じゃない
正直勘弁して欲しい
いい加減にしろ
散々言った、
「だからって、どうしてそうなるんだ…」
ぽたりと濡れたままの髪から落ちる滴が床と追突し、弾けて飛散した。
寒さに因るものではない、わなわなと震える肩。否、肩だけではなく、よくよく見れば体全体で戦慄いているのが見て取れた。
もし今、家人等にこの場を目撃されれば間違いなく誤解されるだろう。
"風邪を召されてしまいます、早く御召しになって下さいませ"という助言付きで。
ご丁寧にありがとう、だが今の俺にはそれは余計なお世話だとしか受け取れない。
寧ろ、それも何かの奸計かと勘繰りかねない。…それほど俺は熱り立っているのかも知れない。
呆れとも云う。
無言のまま、"それ"を嫌そうに積まんて除け(鎧とか鎧とかも)、差し障りないモノだけを選んで身に着ける。
否、身に着けざるを得なかった。
現在地、浴室
あらかじめ用意していた着替えは何時の間にかすり替えられ、脱ぎ捨てた着物を再び着るという選択肢も選ぶことも出来ないまま…
未だに濡れそぼつ髪が、己が風呂上がりだと思い出させた。
「久秀め、やってくれる…」
"信長公にお披露目しようかと思うのだが、…どうかね?"
三十六計、逃げるが勝ち。
浴室の外にこそこそと待ち構える三好達に見つからぬ様に、俺は窓から身を躍らせた。
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