02


すれ違う家人達に次々と頭を下げられ、道を譲られる。

主君の弟という立場だから致し方ないが、こんな普段だらけている親父に改まらなくても良いと思うのだが。
自分で言うのも何だが、威厳などありもしないぞ?(朝からだらしなさ全開だったしな)

まるで誘い込まれているかの様に、奥へと足を進めるほど人気が薄れる。…朝だからか。

「はあ、」

やばいな、溜め息ばかりが出る…幸せを何度逃したことか。
気分は生贄か。
(とって喰われる気はさらさら無いが)


目的地に付き、ピタリと足を止める。
襖は一部の隙間の無いほど閉ざされており、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

「久秀、」

返事がない。
ただの屍のようだ。

「入るぞ、」

一応の断りを告げ、手をかけ少しだけ隙間を開けのぞき込む。
薄暗い室内に差し込む光が、ぴくりとも動かぬ塊を照らしていた。よく見れば、微かに上下していることから生きてはいるみたいだな。
入れるだけの隙間に身を滑り込ませ、パタリと閉じる。一応、こんな所家人には見せられまい。(近づいて来るかは別として)

「おい、久秀」
「…」
「…起きろ、」

ゆさゆさと肩口を揺らすが深い眠りに陥っているのだろう、眉間に皺を寄せただけだった。チラリと襖を振り返る。

…少し焦げているな。

三好も三好で奮闘してくれたんだろう。
頑張った結果、俺が呼ばれた訳だが…。

「う…、」
「! 起きた、か?」

身じろぎし、寝返りをうった久秀に希望の眼差しを向け…落胆。本当に、ただの寝返りだったようだ。
動いた時に乱れた髪が顔を縁取り、手入れの行き届いた白髪混じりの黒髪が光の輪を生む。おのれ、キューティクルか。

──気まぐれに、今は同じ顔をマジマジと観察し始める。(今日に限って、なかなか起きないからな…)

普段は緩く持ち上がっている口許。
獲物を見つけ出した途端、揶揄を含む瞳。
毒をのせる舌。

こうして大人しくしてくれれば俺も、もう少し…

じっと見つめていると、思考が別方向へと飛びそうになる。いかん、"あの日"以来俺は少し、気が緩みすぎな気がする。
(今、思い出しても恥ずかしい…早とちりをして暴れ、泣くなど)

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