胸を焦がすのは怒り
身を潤おすのは嘆き
胎児の様に蹲(うずくま)り、業火の只中で俺は意識を落とした――、
意識を取り戻すと、そこは炎の中ではなく久秀の私室。
悲嘆のどん底に叩き落とされた俺は、意思に反して生き延びて――生かされてしまった。
……悪い夢は覚めないままに。直ぐに現実は追いついた。
趣味良く揃えられた調度品。寝かされていた寝具、着物。焚かれた香に至るまで全て、覚えのあるものばかりだった。
訳が分からない。
これは一体何の冗談だ?
何のつもりだ?
答えは程なく、弾き出される。
松永秀長は、"松永久秀"へと挿げ替わった。
ただ、それだけのこと。
「お目覚めになられましたか、松永様」
「御身体の方は――」
「松永様、信長公より書状が」
「松永様……」
「松永様」
まつながさま、
マツナガサマ――
口を揃えて「まつながさま」と気遣う者たち。その表情から窺えるのは安堵と、不安。
皆、陰で戦々恐々としている。
これはまこと松永久秀であろうか。間違いは無いのであろうか、と。
ささめきは耳に届き、不安は手中に。
誰も彼もが恐れていた。びくびくと、腫れものに触れるよう俺に接した。
しかし主を失っては堪らない。この乱世で強い主を奪われた者の行く末は、他の軍門に下るか、死だ。
(欺瞞、欺瞞)
(ならばその紙芝居に、俺は乗ろう)
もう、何もかもがどうでもいい。茶番を演じろというのならばそれでもいい。
胸に巣食う思いを、持て余していた
絶望を抱え生きる人
全てが変化する
見た目には何も変わることなく
ゆっくりと俺を蝕んでいく変化を
何もかもが厭わしい
渇いた世界へ