02



白い道を赤く染め上げ、一歩一歩踏み鳴らし足裏で砕く。まるで新雪を踏み荒らす童のように躊躇いなく。

怒り猛る右目の咆哮を背に、胸中に業火を抱えて燃え盛る大仏殿へと踏み入った。



奥へ、奥へ。
進む程に一人二人と折り重なり目に付く骸が増える。
漂う死は余りにも濃厚で。使用された香と混じり合い、甘い死の香気を撒き散らしていた。

吐き気がするほどに。

ゆらゆらと揺れるのは熱さの所為か、己の所為か。



「人は生まれて、壊れる事の繰り返しだ」

――ああそうだ。お前の言う事は正しい。生ある者は必ず死ぬ。死は平等だ。俺がそれを忘れていただけの事。


「奪われた者が罪なのだ」

――では奪った者に罪は無いとお前は言うのか。


「何を悲しむ事があるというのだ」



――ドンッ!!

どこかで新たに火薬が引火したのだろう。凄まじい音と同時に巨大な柱が背後で倒れた。生まれた熱風が背を押しよろめいて、漸く足が止まる。






「ふ、ざ、けるなぁ……!」

絞り出した声は酷くしゃがれてみっともなかった。


強く握りしめた拳がわなわなと震え出す。爪が皮膚を破り血が滲み。やがて冷えた指先を伝って落ち、黒い染みに新たに混ざるだろう。膝から力が急に抜け、煤けた床に指を這わせた。

他より一層酷いその場所は、此処で何が起きたのか想像するには容易かったから…。
 


「ぐ、ぅ…――ふぅッ」


眼の奥底から熱い塊が押し出されてくる。
いやだと、必死に喰いしばって耐えても勢いが止まらない。噛みしめた奥歯が砕けてしまいそうだった。

堪えて、堪えて――耐えきれず、乾いた瞳はみるみる潤いぼろぼろと雫が溢れだす。

我慢を重ねた子供のように、後はもう、拭いきれない涙を零し続けた。
胸が張り裂けてしまいそうだ。



一人にしないでくれ


声は泡と消え。

煤と灰と血の跡を愛しむように撫で続けた。爪が黒く染まるのも構わず、掌が汚れるのも厭わず。這いつくばってそのまま――消えてしまいたかった。



あの二人が憎いか?


――違う!


何よりも誰よりも憎いのは、自分自身に他ならなかった。
一人で逝かせてしまった事が、俺の業。



あいつは幸せな男だ。
こんな俺の思いを知らずに死んでいったのだから。

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