05
「ッ…いつから、見ていやがった…」
羞恥を誤魔化すように、低く、問いかける。
返答によっては、その憎たらしい笑みを殴るつもりで拳に力を込めて。
「──…さてね。忘れてしまったよ、いやはや年は取りたく無いものだね。(最初から、と言ったらどれ程の怒りを見せてくれるのだろうか)」
含みを持たせたその答えに、誤魔化すなと口を開きかけたが、
「だがそのお陰で、…大変珍しいものが拝めたよ、」
──存外に、悪くは無いものだな。
頷き、顎をさ擦りながら意地の悪い顔で同意を求める久秀に、やはり最初から見ていやがったなと言う事も出来ず、
「──…次にやったら、許さねえ…」
囁く様に呟いた声は、久秀にだけ思いを届ける役目を果たした。
「さあ、帰るとしようか」
"欲しいものは見つかったかね?"
未だ、固まり続ける双竜など興味の失せたものなのか、燃え盛る炎を背にあっさりと告げられる。
そっくり同じの、だけども遥かに大きく感じる手のひら。
差し出された手の暖かさが、泣きたくなる位切なくて、今度こそ離さない様に
しっかりと握り返した。
人でなしの、望み
人には、向き不向きと言うものがある、
俺には、熱く理想を掲げ、戦場にて名を馳せる事も出来ない、信義に生きる事も出来ない。天下など狙う気も起きない。
アイツの様に欲望のままに生き、死ぬなど───似合う生き方ではないのだ、
でも、
どうやら松永久秀の弟は────、向いてるらしい。
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