04


くらくらと、眩暈の音がする───、



「ひ、さ、…ひで?」


嘘だ、なんで──…、
死んでしまったのではなかったの…か?


血の滑りをかりて刀が手から落ちる。
キンッと澄んだ音が脳に響き、ズキズキと混乱か出血か、どちらか分からない痛みが浸透していく。

アホみたいな顔をして、見慣れた形が緩く弧を描いていくのを、俺は呆然と眺めていた。


「ふ、」

「…ふ?」

「フハハハハッ、はッ、ハ」

「なッ!!」


突然、火がついたように笑い出した久秀。体をくの字に曲げて、見たこともない笑い方をして肩を震わせる。


「なんで、」


なんで笑うんだ。

生きてたなら生きてたで、何で早く出て来ない。血と汗で汚れ、ボロボロになった俺がそんなに可笑しいのか?俺が、何かに懸命になってる姿が、


────お前の"死"に怒る俺が、そんなに滑稽か?


「ハ、…ッそんなに睨まなくともいい、」

「────ッ、」

「涙が零れるだろう、」

「泣、いてなん…か」



"私も泣いたらこんな顔になるのかね"

そう言って、嬉しそうに俺の顔をスルリと撫で、乱れた髪をかき上げた。

涙など流した覚えもないのに、乾いた手袋がじわりと湿る。煤と血で汚れた顔を清める久秀の手を、払える気力も無くされるがままに口を開いた。


「バカを言うな。涙など、流してない」

俯けば、頭上で久秀の喉が鳴る。


「──今日の卿は素直だな。」

苦言を言う俺にまた、


──笑った。




「──…、どういう、事だッ、」

久秀の登場によって支配されていた世界の外から、音が甦る。
俺達を呆然と見つめていた双竜が、息を吹き返し掠れた呟きを風にのせた。

完全に二人の世界を作り出していたらしく、恥ずかしげもなく撫で続ける久秀を今更ながら引き剥がした。
残念そうに離れた久秀が不機嫌を隠さずに、だがどこか自慢気に右目に話しかける。


「やれやれ、無粋だな。折角の感動の再会なのだがね、」

"どうだ、私の弟は。なかなか大胆だろう?"


……。


「「 弟ッ!? 」」

ガバッ、と勢いよく二人が俺を穴が空く程見つめる。


「…双子だ、似ていて当然だろう」

──…人に、こんな風に紹介された事が無かったから無性に恥ずかしくなった俺は、先程の久秀の物言いに反応が遅れてしまっていた…。



…大胆?

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