03
「政宗様…、」
「OK」
怒りを抑えた低い声が、己の意を汲み取って下される。
主を背に庇い、攻撃の構えを取った。
一度はその命を絶ったはずの松永久秀。
燃え盛る東大寺に、その身が滅したのを最後まで見届けた筈だったが…あの爆死も演技だったてぇことか。
あの野郎の、あの胸クソ悪い笑みを向けられた時、頭に血が上りかけ政宗様が居られなければ飛び出していく所だった。
(不甲斐ねぇ…、)
そう己を叱咤し、奴目掛けて刀を振り下ろした───、
(ッ…、しつこい野郎だ)
政宗様と奴を追い詰める様に、矢継ぎ早に攻撃するが決定打を喰らわせる事なく時は過ぎていく。
先を読んだ様な動きで、此方を翻弄する松永。薄ら笑いを浮かべるふてぶてしい態度が、己を苛つかせる。
──しかし同時に不可解な点も浮かび上がる。
(おかしい、)
どこが、と聞かれれば解らない、としか答えられないだろう。
だが、確かな違和感。
己の武人としての感がこの松永は"何かが"違うと告げているのだ…。
主を伺い見ると、政宗様も感じられているようで、怪訝な表情をされておられる。
「──政宗様、」
「ああ、分かってるぜ小十郎」
頷き合い同時に切りかかると、政宗様を躱し己と鍔迫り合う松永。
ギチギチと噛み合う刃と刃が更なる違和感を生み出す。
何度となく打ち合う間に、刀が奴の元結を傷つけ髷が解かれる。
乱れる息を整えぬまま、再び振り下ろせば、
松永の動きが、ピタリと止まる。
振り下ろされる刃の下。観念したかの様に閉ざされた瞼が一瞬、悲しげに震えるのを視界に捕らえた──、
ギィン!
だが、刃が届く一瞬の間合いに一陣の風が──弾く。
「…テメェも生きてやがったのか、」
松永を背に庇い、無言で殺気を放つ男──伝説の忍、風魔小太郎。
ボロボロの忍装束の間から見える肌は、血が滲み決して軽傷では済まない傷が覗く。
「テメェに、松永に対する忠誠心なんぞあるとは思わなかったぜ」
皮肉げに嘲笑えば、対刀を構え低く構える忍。…随分やる気だが…、コレにもまた、違和感が付きまとった。
「こ、たろ、」
信じられない、といった面持ちで松永が喘ぐ。…その一瞬だけ、忍の口元が緩む。
見慣れない、傍目にも奇妙な光景に釘付けにされた空間は、一人の男の登場によってまた更に混乱に陥った。
ジャリッ、
地を踏みしめる音に、三対の双眸が一斉に振り返った。
「やあ独眼竜。私の弟を、返して貰おうかね」
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