あの時にぎりしめた掌

わたくし、佐藤桜子は、人見知りを克服したいと思います!

そう唯一の友人に言うと即答で「無理」と言われた。それだけで胸が打ちひしがれるのでやっぱり友人の言葉は当たっているのだと思う。

「あんた、それ何回目?絶対無理だから。」
「む、無理だなんて!決めつけないでよっ!」
「それも何回も聞いた。」
「うっ・・・」

零れ落ちるように同じ言葉が口からでるので、もうこう言うのがくせになっていしまったのかなあと虚しくなる。
しかし、そろそろ私もこの子以外の人たちとも話してみたい。折角この立海大付属中学校に入学したというのに。せめて一言でも交わしたい。
それに・・・そろそろ私だってお年頃だ。男の子と恋愛だってしてみたい。家に帰って少女漫画を読んで憧れるのは夢だと思っていたくない。
そんな私の心情を汲み取ったのか、友人はため息をついて私の腕を引いた。

「えっ、どこにいくの?」
「いいから、いいから。」

手を引かれながらもたどり着いたのはテニスコートだった。な、なんでテニスコート?テニス部?
・・・テニス部といえばかっこいい男の子たちを見ているギャラリーの女の子たちが有名だが。
話しかけようとした友人がニッと意地悪な顔をしてこちらを振り向いた瞬間、どこからか聞こえてきた怒声が耳を劈いた。

「なっななななな、なに?!」
「ふふ、あれ見て。」
「え?」

彼女が指をさした方向にいたのは、テニス部の人だった。

「あれは真田弦一郎くん。いつもあんななのよ。」
「へ、へえ・・・。」
「いつもああやって喝入れてるみたいなの。」
「へ、へ、へ〜・・・。」

なんだか読めてきた気がする。
未だにニヤニヤとしている友人は私の予想通りの言葉を言ってくれた。

「あんた、マネージャーなんかになって、真田くんの喝に慣れるのはどう?」
「ねえ、何言ってるの?冗談やめよう・・・。」
「真田くんのあんな喝に慣れることができたら、そりゃあ人見知りからペラペラ会話のコミュ力充実になるのも時間かかんないと思うよ〜?」
「だからって、マネージャーなんて・・・。やったことないよ・・・!」
「まあそこはいいじゃん!」

なんて無責任で恐ろしい友人だろうか。
しかし、言っていることは確かである。あの喝に慣れれば、私だっていろんな人と話せて素敵な男の子とラブストーリーを奏でることができるのでは?
そうなったら本当にもう何もいらない。もうそれだけで十分なほどだ。私は息を飲んだ。

「まあ、桜子にはできな・・・」
「やる!」
「え?」

まさかやるというとは思っていなかったのか、友人は心底マヌケな顔をした。
その顔に少々愉悦を感じたが、気を取り直す。これは私の人生の大きな選択だ。

「マネージャーになって、人見知りを克服するよ!」
「えっ、あっ、そう。・・・へー、頑張れ!」

適当なのか?大分どうでもいいような返答をされたが、それが彼女のいいところなのかもしれない。
人見知り克服に燃えていた私は、マネージャー希望の紙を書いた。部長の幸村精市くんには友人が事情を説明してくれたのだが、とっても愉快そうな顔で笑っていた。

こうして私は、晴れて立海大付属中学校テニス部マネージャーの名をいただいたのだ。
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