うんめいってハーモニーみたいね

「うわ、雨・・・。ほんとだったんだ・・・。」

昼間はずっと陽が照っていて、降水確率60パーセントなんてやはり当たらないものだ。と持ってきていた傘を睨んでいたが、どうやら傘は必要だったらしい。
なんの変哲もない透明傘を開いてビニール越しに空を見つめた。雨粒が星空のように広がっていた。
こんなに遅い時間まで学校に残るのは久方ぶりだ。いつもはさっさと帰宅してしまう私だったが、今日ばかりはそうはいかなかった。
真面目な私は委員会に出席し、その上大きな声で自分の発言をすることはあまりない私は面倒な仕事を任され、こんな時間まで学校にいるはめになったのだ。
はあ・・・。ため息を吐き出しているときに、横から人の気配がした。そうか、部活もこの時間に終わるのか。
テニス部の海堂くんは律儀に傘を持ってきたらしく、それを広げて帰っている所を見かけた。
しかしまだ部活の人が残っていたのか、横を見るとそこには私が一年半ほど片想いしている桃城武くんがいた。
桃城くんはこちらに気づくと空を見ていた不穏な瞳から、いつもの優しい瞳に変わって唇を動かした。

「よお。まだ残ってたのか?」
「うん。委員会で居残り。」
「そっか、桜井も大変だな。」

よく見ると桃城くんはどうやらテニスバッグ以外に何も手に持っていないようだった。

―――傘、入る?・・・なんて言えないよ。

私は手に持っていた傘をたたみ、桃城くんに差し出した。

「これ、使いなよ。」
「え?でも桜井が・・・。」
「テニス部って大会あるし、風邪引いちゃうと練習もできないよ。私は家も近いし・・・。」
「俺は風邪ひかないって!バカだからさ。だから、お前がさせよ。元々持ってこないのが悪いんだしさ。」

桃城くんは以外と頑固だった。持ってきたお菓子だって貰っていくくせに。
たかが傘だろう?桃城くんは学校から少し遠い所だと聞いた。私の家は近所だし、走ればなんとかなるのだ。
・・・それに桃城くんともう一度話す口実だってできるし。

「さっきも言ったけど家近いし、走れば大丈夫だよ。だからほら!」
「以外と頑固だな〜・・・。」

それはこっちの台詞だ。桃城くんだってそうじゃないか。
そんなような事を口走れば、桃城くんは何か渋っているようだったが、よし。と声に出してから再び口を開いた。

「じゃあさ、一緒に帰ろうぜ!送るからさ。」
「え?で、でも・・・。」

一緒に帰る・・・?まさかこんなに段取りのいい事があっていいのだろうか。
こんなに思い通りに事が進んでいいのだろうか。なんだか怖い気もするが、少し混乱した頭で考えていると傘を奪われ開かれる。
傘についていた雨粒が跳ねて桃城くんにかかる。戸惑っていると、桃城くんが勝手に進んで行ってしまう。

「ほら、早くしねえともっとひどくなっちまう。行こうぜ。」
「う、うん・・・。」

桃城くんの眩しい笑顔が心に痛い。なんだか私だけ下心を持っているようで苦しくなる。所詮、叶うことのない片想いだ。
こうして隣で歩いているとなんだか恋人同士のようで、心臓が高鳴っていることに気づく。顔も赤かったらどうしよう。
いろいろ考え込んでいると、自然と口を結んでしまい、アスファルトに降り注ぐ雨音とビニール傘に当たるそれだけがただ響く。
桃城くんを見上げるとなぜだか目があった。それにまたどうしていいかわからなくなり下を向く。
何か話さなくちゃ・・・。ほんじつはおひがらもよく、違うなあ。ごめんねこんな傘で、ネガティブか。・・・あっ。

「さ、寒いね・・・。」

さ、寒いねって私・・・。なんなの・・・。
緊張した頭で考えた結果がこれだった。桃城くんはなぜだか黙り込んだままで。
しかしいきなり私の肩が熱くなった。桃城くんがつかんだせいだった。そしてそのまま引き寄せられる。
桃城くんの匂いがする。すごく近くにいるんだって事を意識して、つい身が固まってしまう。
ん?え?え?桃城くん、どういうこと?真っ白な頭で考えた末、答えはそれだったが、桃城くんは立ち止まり私も足を止める。
桃城くんを見つめようと目を向けると、桃城くんではないかと思うような熱い瞳と自分のものが絡み合った。なぜだか自分の身体がつま先からつむじまで硬直しているようだった。

「・・・あ、のさ。」
「・・・は、はい。」
「お、おれさ、割と、ずっと前から、桜井の事好きなんだけど・・・。」
「・・・え?」

桃城くんの言葉に頭が真っ白になる。
ずっと前から?私はあなたと出会ったころから好きなのだけど、桃城くんはいったいいつからなのだろう。
私が何も答えないでいると、はっとしたかのように桃城くんはもう一度急いで言葉を紡いだ。

「だから、その、付き合ってくんねえかな・・・。」
「え、あ、あ、あの・・・。」
「・・・あっ、あれだ。返事は後でいい、からさ。」

照れたように視線をずらして、前を向いて歩き出そうとした桃城くん。そんな彼に声をかけた。

「いつから、ですか?」
「・・・。」

桃城くんは私の一言で急に立ち止まったので、私はそのまま彼を見つめる。
身体の向きを変えて二人で向き合う。どきどきと心臓が高鳴っていた。

「・・・桜井と同じクラスになってから、ずっと。ずっと好きだ。」
「へ・・・。」

桃城くんと同じクラスになったのは、一年生の頃だ。そんな。私も同じだなんて。
この時は言わざる負えなかった。桃城くんの熱い視線に、私も同じようになり、なんだか世界に私たちだけのような気がしてくる。

「わ、た、しも・・・。いっ、一年生の頃から、好き。・・・大好きなの・・・!」

今まで桃城くんに対しての想いが胸から溢れ出てくるかのようだ。
堰を切ったように溢れ出てくる涙は、それと比例しているのか止まらなく、気づいたら桃城くんの胸の中に押し込められていた。

「俺も、俺も、大好き。もうずっと大好きだったんだよ!」
「も、桃城く・・・っ。」
「・・・もう絶対に離さないからな。桜井・・・。」

明らかに込められている愛情と桃城くんの匂い、そしてどくんどくんと響く心臓の音が幸せに感じる。
桃城くん大好きだよ。もう離さないで。私だってずっと一緒にいたいんだから!
私はそう心で叫び、桃城くんに壊れるほど抱きしめられていた。腕が回らないほど大きな背中に涙をこぼした。大好きなんです。






***
中学生っぽいまっすぐで苦しいほどの恋が大好きです。こんな桃城をかけて幸せです。
(2015.09.28)
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