「そういえばさ、レッド」

「うん?」

「今日はバレンタインだな」

「うん」

「ヒビキなんか、今日は何個チョコを貰えるかシルバーと競うんだって、すげー意気込んでてさ」

「ふうん」

「………」

…ダメだ。
やはりこいつに淡い期待を抱いても、余計に傷口をえぐられるだけらしい。
情けない話だが、意を決してダイレクトにチョコをくれと言わない限り、きっといつまで待ったところで望みは叶うまい。
いつもなら倍の時間かかるであろう書類作業を精神力で終わらせてジムを休業日にし、お付き合いをしている彼女の修行場所であるシロガネ山までわざわざ足を運んで、さりげなくバレンタインの話題を出した時点でそれなりに期待を膨らませていたグリーンは、今しがたの気のない返事に内心がっくりと肩を落とした。
まあ、ポケモン以外のことに関しては、たとえ自分の身であろうと無頓着な彼女のことである。
多少覚悟はしていたが、いざ「バレンタインだけど、何か?」というような態度をとられると、さすがにきついものがある。

だって、一応お付き合いをしている仲なのだから、期待してしまうじゃないか。
グリーンは心の中で盛大にため息を吐きつつ、隣に座る彼女にちらりと目をやった。

姉からお土産にと持たされたトリュフを美味しそうにもそもそと食べる彼女――レッドは、その落胆するグリーンの様子をどうとったのか、口に運ぼうとつまんでいたトリュフをそのまま彼の前に差し出した。

「…食べたかった?」

はい。
と、小さなトリュフを持った細くて白い手がグリーンの口元に届く。

「………え?」

いわゆる「あーん」の体勢である。
どうやらレッドは、グリーンがこのトリュフを食べたがっていたのではと考えたらしい。
まあ、チョコという点に関してはあながち間違ってはいないが。

「………」

差し出された手をしばし見つめてから、かぱ、と小さく口を開いたグリーンに、レッドがそっとそのなかにトリュフを入れてやる。
数回粗嚼してごくんと飲み込んだのを見届けてから、レッドはふわりと笑って「おいしいよね」とまた次のトリュフに手を伸ばした。
…なんだこいつ、可愛い。
シロガネ山の頂上から、ちくしょう可愛すぎると叫びたい。
が。

(これがレッドの手作りだったらどんなに良かったことか……)

もぐもぐと口を動かして幸せそうな笑みを浮かべるレッドに見惚れながら、グリーンはまた内心ため息をつくのだった。





















「あ、グリーン」

帰り際、とうとう本命のチョコを貰うことは叶わなかったとグリーンがうなだれていると、ふいにレッドがその背中にぽんと手を添えた。

「ジムに帰ったら、探してね」

「…何を?」

心当たりのない発言に首をかしげる。
はて、何か隠されたものでもあっただろうか。
ぽわんとはてなマークをとばしていると、レッドが小さく微笑んで、「チョコ」と呟いた。

「コトネが、届けてくれてるはずだから」

まさかグリーンがシロガネ山まで来るとは思わなかった、と。
いつも通りジムの運営にいそしんでいるだろうグリーンに、かといって直接渡すには少々気恥ずかしいと思ったらしい。
レッドはこっそりと、コトネに協力を求めてグリーンにチョコを渡す手筈を整えていたのである。

…ああ。なんだ。

うつむいているレッドの頬はかすかに赤みを帯びていて、照れているのだと一目でわかる。
グリーンは嬉しさにふるふると震える口元を手で覆って、
彼女との距離を一歩ぶん詰めた。――とうとう、先程思ったことを実行しようと決めたらしい。
とりあえずは、この可愛い彼女を思いきり抱き締めることから始めようか。













いっそ叫んでしまえ









(ちくしょうレッド超可愛い!!!)

(ばっ、ばか!!)















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ああもう何番煎じかわかりませんが
バレンタイン!チョコをわたすのがはずかしいにょレッドさん!でした!





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