生きている女の子を好きになったことは、今までに一度もないと思う。 気にる子はいたけれど、その子が呼吸をするのが邪魔だった。動く、喋る、息をして、おれに微笑みかける。そのすべてがが嫌だった。お人形さんの女の子の方がよっぽど綺麗だと思う。だってお人形は喋ることもないし、動かないし、年をとらないでしょう? 「だから、レッドさんのことが好きです」 真っ白な雪に溶け込むように、儚げでいとおしい存在。レッドさん。 ああ、首をかしげるその仕草もとても綺麗ですよ。 「おかしいな。俺は動くし喋るしきみに触れられるけど。矛盾してない?」 「あれ、本当だ。いやいいんです。レッドさんは、特別。おれの知る中でいちばん理想に近いんです」 さくさく。 雪を踏みしめて、彼との距離を詰める。 触れてみると、彼はたしかにそこに存在していて、おれを不思議そうに見つめる目にも生気を感じる。 けれど、やっぱり他の人間とは違うのだ。 「きっとレッドさんが死体になったら、それは綺麗なんでしょうね。そうしたらおれは、あなたの死体を綺麗なままでずっと側に置いておきたいです。ほら、冷凍保存すれば、損傷も少ないでしょうし」 「さらっと怖いこと言わないでくれるかな」 「あはは、大丈夫ですよ。あなたがここにいる限りは、おれは今のままで十分にあなたを愛せますから」 ふわりとその手を取って、誓うように甲に口づけた。 半袖のシャツからのびる白い腕は、外気に晒されて冷たくなっている。 きっと、これなんだろう。 雪山で過ごすレッドさんは、いつ触れても冷たくて、まるで死んでいるみたいだ。 洞窟で薪を囲んでいても、額に汗がにじんでも、すぐに冷風に晒されて体温が奪われる。 もともとあまり表情筋の動かないひとだ。綺麗な赤い瞳で見つめられて、冷たい掌を握っていると、死体と触れ合っているような錯覚に陥るのだ。 本人にしてみれば大変失礼なお話なんだろうけど、おれはそんな彼にどうしようもなく心惹かれてしまったのだった。 「でも、あなたが山を降りて、ひとの体温を取り戻してしまったら、おれはあなたを殺してしまうかもしれません」 「そう。やれるもんなら、やってみるといいよ」 「下山する予定あるんですか」 「ないけど」 「あはは、なら大丈夫です」 せっかく、生きているひとを好きになったんだ。 もうしばらくは、このままでいさせてくださいね。 そうして綺麗な顔を見つめて、おれは今日も幸せを噛みしめるのだ。 *** 死体愛好家ゴールドくんと器の大きすぎる先輩 - - - - - - - - - - |