夜闇の中で、ふと視界に入る鉄格子。 窓を覆うように取り付けられたそれ越しに、きらきらと輝く丸い月が見える。 どうやら今夜は満月らしい。 窓際のベッドに腰掛け、どこか恍惚とした表情でそれを眺めていたレッドは、扉の向こうに響く微かな足音を聞き取って、そちらにゆっくりと目を向けた。 ああ、そろそろ彼がやって来る時間だ。 もうすぐ始まる幸せな時間を想い、レッドは静かに笑みを浮かべる。 膝の上で組んでいた手を解いて体の横に移動させると、鉄格子に繋がれた鎖がじゃらりと重い音を立てた。 両手を戒めるその鎖は、レッドにとってはただ彼に触れる際に邪魔なもの、としてしか認識されていない。 窓を覆う鉄格子といい、両手に繋がれた鎖といい、これも彼の執着の証だろうかと考えると、おかしくて笑ってしまいそうだった。 だってこんなもの無くたって、自分は彼から逃げることなんてあり得ないのに。 「よ、レッド。元気か?」 ぎい、と音を立てて開けられた扉から、彼がひょっこりと姿を現した。 食事をのせた御盆を片手に持ち、ベッドに腰かけるレッドのもとへと歩み寄ってくる。 「グリーン、こんばんは」 嬉しそうに笑みを浮かべるレッドに、つられて彼、グリーンも小さく笑ってみせた。 ベッドサイドに置かれたミニテーブルに御盆を置き、そのままレッドの隣によっこらせと腰かける。 「うわ。グリーンおやじくさい」 「うるせ。オレも疲れてるんだよ。ったく、毎日飽きもせず挑んできやがって」 何回やったって結果は変わらないだろうに、とこぼすグリーンに、レッドはおつかれと声をかけてやる。 彼の言う相手は、きっとヒビキのことだろう。 どうやらレッドが姿を消してから、ヒビキは頻繁にグリーンにバトルを挑みに来るらしい。 きっとバトルだけが目的ではないのだろうと、レッドは思う。 頭の良いあの後輩のことだから、レッドの突然の失踪にグリーンが関係していると気付いているのだろう。 そう。失踪だった。 レッドは今、行方不明者として捜索が進められている。 三年前にも似たような形でレッドは故郷から姿を消したが、それはチャンピオンとしての身分を破棄し、世間の目から遠ざかる意味での失踪だった。それゆえに身内の人間はレッドが旅に出る旨を把握していたが、今回はまるで違う。 知らないのだ。誰も、レッドの居場所を。 レッドをここに閉じ込めた彼、グリーン以外は。 「お前がここに来てから、そろそろ1ヶ月経つな」 グリーンは相変わらず、レッドをここへ閉じ込める以前となんら変わらない笑顔で接してくる。 だからレッドには分からない。彼がいったいどれだけの暗闇を抱いて、自分をここへ閉じ込めたのか。 「オレはさ、お前と一緒にいれたらって、ずっとそれだけを思ってたんだ」 「そう」 その言葉にも表情にも、狂気の色はひとつもない。 ただ当たり前に友人との会話を楽しむといった、それだけだった。 「お前は?」 そして、まるでなんでもない日常のあいさつを交わすように、必ずこの台詞を毎日繰り返す。 「お前はここでオレといて、幸せか?」 「――うん」 そうなるとむしろ、狂っているのは自分の方ではないかとレッドは思う。 グリーンが毎日、レッドの待つこの部屋に帰ってくること。 閉じ込められることで、自分が彼だけの所有物であるということを認識できること。 夜毎たくさんのことを語り明かして、時々思い出したように唇を重ねて、彼が自分だけを見てくれること。 そのすべてに、レッドは満ち足りている思う。 「すごく、幸せだよ」 そうしてはにかむと、「そっか」と嬉しそうに笑う彼を、心底愛おしいと思う。 この感情に色をつけるとしたなら、きっととても毒々しくて、暗い闇のような色になるんだろう。 「愛してるよ」と囁かれた言葉に、顔を綻ばせて「俺も」と応える。 ああ、やはり狂っているのは、俺の方なのかと。 ふわりと抱き締められ、その背中に手をまわしながらレッドは思った。 **** どろっとした緑赤、になっているか不安ではありますが… あずきさん ヤンデレリクエストありがとうございました! あずきさんのみ、お持ち帰りOKでございます ※コピペボックスが必要でしたらお声がけください - - - - - - - - - - |