海に行きましょう、という後輩からのお誘いを、海?ああいいよなんてあっさり二つ返事で承諾したのは、さかのぼる昨日の放課後ことだ。
たたん、たたんと電車にゆられながら、レッドは何も考えずにに承諾した自分を激しく恨んでいた。
思春期、という年齢は過ぎた頃だけれど、気にするのも仕方ないじゃないか。
だって、海だ。海。
自分を誘ってくれたこの後輩は女の子で、行く先は海。海といえば水着だ。誘われるまま、自分も当然のように水着を持参してきたわけだが、今になっていやちょっと待てよと思い至る。
海で、水着で、二人きりのデートである。
これが意味するところを重大に受け取ってしまったレッドは、内心頭を抱えて唸りたい気分だった。
そんな、年頃の娘が、いくら身近な先輩とは言え他人の男の前で肌を晒すだなんて!!

(しまった…誘われた時点で気付くだった…)

きっとコトネの今日のお誘いに、深い意味はないのだろう。最近なにかとレッドのことを気にかけてくれる可愛い後輩のことだ。今回レッドに声を掛けたことだって、マネージャーという身分を飛び越えて、レッド個人の体調を気遣っての判断にちがいない。
なんて良い娘だ。けれど、なんで海なんだ。

(俺だって、気にしないわけじゃないのに)

巷で硬派な紳士という肩書きで通っているレッドとしては、ここで動揺を見せるわけにはいかないのである。
どうやらこの後輩も周りと違わず、レッドのことを「クールで二枚目な堅実男子」みたいに思って尊敬してくれているようだからなおさらだ。
悲しいかな、いつだって、理想と現実は異なるもの。
実際のところ、レッドはクールとも二枚目ともまったく程遠い位置にいて、どちらかというと熱血漢な主人公気質だった。
けれどそれは表情には現れない。らしい。
腐れ縁でチームメイトのグリーンや双子の妹のリーフに言わせれば、どうやらレッドは感情表現が人より乏しいらしい。
心外だ。感受性は人より豊かなのに。

「レッドさん、どうかしました?」

悶々と考えていると、隣に立つ後輩が声をかけてくる。ほわほわとまわりに漂うお花オーラが目に見えるようだ。コトネはいかにも浮き足立ってるのを必死に隠しています、という様子が見てとれて微笑ましい。よほど海に行くことが楽しみなのか。
…まあ、正直に言ってしまおう。
実際のところ、レッドはこの後輩が可愛くて仕方なかった。
実の妹とはまた違った種類の妹というか、元気で明るい性格に癒されるというか、小動物を愛でる気持ちに似ているようでまた少し違う。レッドはコトネについて考える時、いつも位置付けに迷ってしまうのだ。この娘は妹でも小動物でもない、後輩の女の子。ならば自分がこの娘に感じるこの思いは、いったい何なのだろう。
考えてもわからないなら、とりあえずは保留にするしかあるまい。

「…ううん、なんでもない」

君と行く海、楽しみだな。
それだけ言えれば、レッドは満足なのであった。











…あとはあわよくばコトネの水着姿を阻止できれば、今日の任務は完遂である。
(可愛い後輩の貞操は、俺が守らねばなるまい)
駄目なら自分のパーカーを羽織らせてでもうんぬん、と考えるレッドは、コトネが何気ないレッドの言動に卒倒しかけていることや、騒ぎたい盛りのチームメイトに尾行されていることにまだ気づいていないのだ。






















***
赤(→?)←琴でした。





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