時間軸はBW2
トウコ不在














二年ぶりに見た背中は、ちょっぴり逞しく見えた。
「おおい、Nー!」
くるりと振り向いて、わたしを見つけて、それから懐かしいものを見るように笑った彼に、あの頃にはなかった親しみが湧いてくる。
ニンゲンらしいと言うか、前よりずいぶん柔らかく笑うようになったな、というのが、第一の感想。
ああ、あなたはきっと色々なものを見て、感じてきたんだね。
「戻ってきたって、本当だったんだね」
これはトウコも喜ぶね、と笑って見せたら、彼は顔を曇らせてしまった。
「トウコがいないんだ」
ぽつりぽつり、かつての英雄は語りだす。
「色々な人に触れて、色々な考え方に触れて、温かいものをたくさん見てきた。世界は美しいものだけではないけれど、それでもボクの見ていた小さな世界より、本物はずっと美しかった。ヒトもトモダチも幸せだって笑ってるけれど、でもそこに、トウコがいないんだ」
見つからないんだよ。
目を伏せた彼は、懐かしいものを思い出すような、切なくて、とても優しい表情を浮かべる。
彼女の辿った道を、Nもまた同じように歩いてきた。
探して探して、見つからなくて、それでもずっと追いかけた。彼女がそうしてきたように、Nも彼女の心に触れようとしているんだ。
(Nが見つからないの)
泣いていた彼女のことを思い出す。理想を抱いて真実の英雄を破ったトウコ。ずっとずっと、自分の出した答えに確信を持てずにいた。いつだって、これで良かったのかと自分を責めていた。
「ボクは、彼女からたくさん温かいものを教わったよ。ヒトはとても温かくて優しいこと、たくさんのトモダチが笑っていること。世界をまわって改めて思ったんだ。…ボクは、またもう一度、彼女に会いたい」
ねえ、トウコ。あなたの選んだ道は、決して間違ってなんかいなかったよ。
「トウコは、帰ってくるよ」
だってあなたがトウコを追いかけているように、トウコもあなたを追いかけているんだもの。
「あなたはここに帰ってきた。だからトウコも、きっと戻ってくるよ」
あなたが彼女を想っていたように、彼女は今もどこかで、あなたを想っているんでしょう。
わたしには彼女を見つけることはできなかったけれど、彼女の心の穴を埋めてあげられなかったけれど、それはきっとあなたの役目だから。
「…ありがとう。キミと話せて良かったよ」
ああ、こんなに穏やかな笑みを、あの頃のわたしには想像もできなかったな。
「ボクはもう行くよ。トウコを探しに行かなくちゃ」
またね。

「うん。また会おうね」

ねえトウコ。
彼はもう、サヨナラなんて言わないよ。
こんなにも温かく、穏やかに、笑っているよ。
だから、早く帰ってきてね。





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