とても、とても言いにくいことだけれど、コトネの作る料理は個性的だ。
彼女の幼馴染みであるヒビキに至っては、あれは人の食べるものではないと言う。
ならばことあるごとにコトネの手料理を振る舞われる俺の立場はどうなるのかと問うてみたら、「たっ、担架ならいつでも準備しますから!」と非常に体調を心配された。
ちょっと複雑な気分になる。

実際にコトネの料理の見た目は悪くないし、匂いだって普通のそれとあまり変わりない。
だからきっと、あれを「人の食べものではない」と言わしめる理由は、味と食感にあるのだと思う。
どうしてあそこまで個性的な味がするのか、俺にはとてもじゃないけど想像がつかない。
雪山で修行を始めてからだいぶ時間が経つし、体の丈夫さには自信があったけれど、彼女の手作りの弁当を口にしたその日の夜には本当に担架のお世話になった。
俺が半ば気絶するように倒れたあの時の、ピカチュウの唖然とした表情は今でも忘れられない。
そういえば一口目に食べた煮付けは石のように固かったっけ。
一体あの中に何が入っていたんだろうか。
ちょっと怖くて聞けない。

「レッドさん。どうしたんですか、ぼーっとして」

コトネが手にほうっと息を吹き掛けて、寒いと言いながら寄ってきた。
洞窟の中にいるとはいえ、吹き込んでくる風まではしのげない。まして雪山に不馴れな彼女にとって、この寒さはかなりこたえるはずだ。
それでもコトネは、バトルをする気のない日も、こんな雪山までわざわざ俺に会いに来てくれる。
だから、そう、この子に罪はないんだ。
ただ少しばかり、俺の体がコトネの料理についていけないだけ。

「…ん、なんでもないよ」

俺が言うのもなんだけれど、少し抜けているコトネのことだ。
塩と砂糖を間違えたとか、分量を(大幅に)間違えたとか、そんな感じなんだと信じたい。
ふるふると首を横に振って、コトネの頭にぽんと手をのせた。
するとコトネがそわそわと目線を泳がせる。

「あの…」

「?」

これ。
と、差し出されたのは、赤いリボンでラッピングが施された小さな箱。
ああ、そういえばグリーンがしきりに騒いでいたっけ。
今日はたしか…

「バレンタインということで、チョコレートケーキを作ってみたんです」

お口に合えば良いんですけど。
そう言って恥ずかしそうに微笑むこの年下の恋人が、俺は心から愛おしいと思える。
さっきも言ったように、コトネの料理の腕に罪はないんだ。
ただ、ほんのちょっとだけ、何かがおかしいだけ。
だから、その「何かちょっとおかしいところ」が直るまでは、俺が我慢すれば良いだけなんだ。
ちょっとくらい担架のお世話になったって、いつかは慣れることなんだろうから。たぶん。

「…ありがとう、コトネ」
そういうわけだから。
たとえコトネの作ったチョコレートケーキがどんなに固くてもあんまり美味しくなくても、俺はそれをちゃんと完食する。
だけどもしも明日、俺が冷たくなって見つかっても、どうか勘違いしないでほしい。
担架のお世話になる直接的な原因はコトネじゃなくて、コトネの料理についていけない俺の軟弱な体がいけないだけなんだ。
だからほら、ピカチュウは真っ青になってぶんぶん首を振っているけれど、決してコトネの料理の腕前が悪いわけではないことを先に言っておこう。
どうかコトネが帰るまで、俺の体が持ちこたえてくれますように。
それでは両手を合わせて。

「いただきます」























「美味しいよ」と言うと日が差したみたいに明るくなるきみの笑顔に、俺はめっぽう弱いんだ。

















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破壊神(胃袋的な意味で)なコトネちゃんと被害者レッドさん

コトネちゃんの料理の腕前が核兵器並みだったら楽しい





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