公式設定ユウハル 突然だがオレは今困っている。 別に命が危険にさらされているとか、手持ちのポケモンが全員瀕死状態なのに薬がないとか、そういった類ではないが、とにかく非常に困っている。 その原因をのぞきこんでみれば、あまりにすやすやと気持ちよさそうに寝息をたてているので、これではとうてい起こせそうにない。 たらり、冷や汗が流れた。 なんとか気を逸らさねば、これ以上はオレの心臓がもたない。 密着している部分がじんわりと温かい。 肩に感じる重みが、この上なく気恥ずかしい。 …そう。 オレ、オダマキユウキは今、意中のあの子に肩まくらを貸し出している。 どうしたい、どうする、どうしましょう そもそも、どうしてこうなったのか、思い返してみても見当もつかない。 まず、今日はぽかぽかととても良い天気だった。 まさに絶好の昼寝日和、最近はジム戦やアクア団の襲来やらで休む暇がなかったなと思ったオレは、今日は手持ちのポケモンたちを休ませてやりたいと思い、ミナモシティ郊外に足を運んだのだ。 それでもって、湖のほとりにある手ごろな木の下にずいと座って、手持ちの子らをボールから放ってやった。 そのまま今日は昼寝をしようと宣言して、オレはワカシャモの背にもたれて、就寝。 した、はずだったのだが。 冒頭に至る。 なぜか目が覚めたオレのとなりには、意中のあの子――ふわふわの茶髪を風になびかせたハルカが腰かけていて、ついでにオレの肩に頭を預けて眠っているではないか。 どうした。なにがあった。なぜお前がここにいる。 声に出さずに口をぱくぱくさせているオレの姿は、きっと周りから見れば心底間抜けに映ることだろう。 だがしかし、オレにとっては一大事、心臓の危機だ。 ハルカはオレのお隣さんにして、ライバルだ。 けれど同時に、最近密かに淡い恋心を抱いている相手でもある。 それに気付くまでには色々な経緯があったのだが、それを語ると一日が終わってしまうので、割愛。 とにかくこの状況を打破しなければと頭をフルに回転させる。 このままでは恥ずかしくて死んでしまう。 ちくしょう、いつもクールで通ってるオレはどこに行った。なんでこんなにうろたえてるんだ。 また冷や汗をかいていると、ふと、背中がもぞりと動いたような気がして、後ろを向いた。 「…………ワカシャモ」 …なに笑ってんだお前。 見ればくすくすと肩を揺らして笑っている相棒の姿。 笑い事じゃない、オレは本気なんだぞ。 じと、と睨み付けてやれば、楽しそうに一声鳴いた相棒に、少しだけ頭が吹っ切れた。 ………そうだな、スルーしよう。 そもそも肩まくらくらいでこんなにうろたえることなかったのだ。 確かに恥ずかしいしドキドキするけれど、ハルカはこんなにも安心しきって眠っているじゃないか。 …きっとハルカも疲れているんだ。今日はオレと同じようなことを考えて、のんびり過ごすつもりだったに違いない。 それで偶然オレを見つけて、こうして昼寝を始めたんだろう。 ハルカの安眠のためだ。恥ずかしいのも我慢だ、オレ。男を見せなさい。 それに、いつも元気に跳ね回っているこいつの、小さな子供みたいにあどけない寝顔なんて、滅多に見れない。 これは良い機会と考えた方が良いのかもしれない。 オレは肩を差し出すことでハルカの安眠を守る代償に、誰よりも間近でその寝顔を見守れるのだ。 うん。 そのへんでひとりで昼寝されても心配だし(ハルカならやりかねない)、オレの側にいてくれた方がいくぶん安心だ。 きっとこれは、ハルカの昼寝を守れとオレに下された天命なのだ。 ならば完遂してやろう。うるさい心臓は、この際無視だ。 「ワカシャモ、あとはよろしく」 オレはひとつ相棒に声をかけて、またうとうとと目を閉じた。 心なしか、いつもよりも安心して眠れるような気がした。 そのまま夜までこの体勢がつづき、二人揃って風邪をこじらせたのはまた別のお話。 **** ユウハル企画さまに提出させていただきました!! 素敵な企画に参加させていただきありがとうございます いやはや、思いの外長くなってしまった ハルカが一言もしゃべってませんが、そこはご愛嬌 「今日は良い天気だねー。…あ、ユウキくんだ。めずらしい、お昼寝してる。いいなぁ、あたしもお昼寝しよう」 的な感じで肩まくらに至ったんだと思います。はい。 ユウキくんの葛藤が書けて楽しかったです。とても。 ここまで読んでくださってありがとうございました! - - - - - - - - - - |