けれど僕らは気付かない


兵助もハチも、相手にはっきり気持ちを伝えるのが苦手だ。
ハチはまあ、どちらかというと相手の意見を否定することが苦手なんだけど。

だからあんまり親しくない人からは、兵助は何を考えているのか分からない、ハチは明るくて優しい、と評価されている。
本当は二人共、全然そんなことは無い。

第三者からの評価なんて意外と宛にならないもんなんだよね。



三郎達のクラスから帰ってきた兵助は、笑ってはいたけどどことなく沈んでいた。
三郎達のいる前でハチが何か言うとは思えないから(三郎達が必要最低限の会話しかさせない)、今朝見た夢を思い出したんだろう。
ここ最近、兵助があの夢を見る回数が頻繁になっていた。

そろそろ何かあるのではないかと、俺は密かに楽しみにしている。
多分良い兆候だと思うから。


ついさっき、兵助がいない間に鉢屋が言っていた。
初めてハチが兵助に興味を持ったらしい。
これは……遅くとも今週中には何かあるのでは無かろうか。

まあ、記憶の無いハチが兵助を追い詰める可能性は否定出来ないので、現段階ではハチと兵助を絡ませる気はさらっさら無いけど。



「尾浜」



たまには俺だってサボりたい時もある。というわけで午後の授業をサボってみた。
進学系のクラスだからあまりよろしくないのは分かってるけど、こうでもしないとゆっくり話せないし。
鉢屋が報告しに来たあたりから、ハチの視線がずっと痛かった。



「竹谷じゃん。どしたの」
「いや、ちょっと……」



屋上は開放的な場所だ。場所ってのは結構大事で、閉鎖的な場所だと怒りっぽくなるし逆に開放的な場所は余裕を持って話が出来る。らしい。雷蔵の受け売りだけど。

ハチは暫く口ごもり悩んでいたようだが、何かを決めたように俺を真っ直ぐ見た。



「……俺さ、彼奴に何かしたか?」
「彼奴って?」
「……あー……へ、いや、久々知」



……今『兵助』って呼ぼうとしたな。無意識だろうか。
見ようによっては拗ねているようにも見えるハチに思わず笑う。
これは、ちょっと期待出来るかも。



「何かした……うーん、どっちかと言うと何もしてない、かな」
「へ?何もしてないのに避けられてんの俺?」



ガーン、という音が聞こえるくらいショックを受けるハチに訂正を入れる。
今のは俺の言い方が悪かった。



「じゃなくて、何もしてないのが駄目というか」
「はあ?」
「いやあ、はっきりとは言えないんだよなあ」



苦笑しつつ頭をかく。
前世の話を一からするのは駄目なので境界線が難しい。
話をしたところでハチが思い出さなければ意味が無い、どころか混乱させる可能性が高いからだ。



「まあ、色々考えてみてよ。兵助のこととか俺達のこととか、兵助のこととか兵助のこととか」
「って殆ど兵助のことじゃねーかっ!」
「さーてっ、今日は兵助にクレープ奢らせよーっと」
「聞けよ!」



つっこみに笑って、屋上を出た。
ハチは順調、俺の気分も上々。近々見れるであろう兵助とハチの幸せそうな顔を思うと、早く思い出せと願わずにはいられなかった。






(無意識に名前で呼んでるって、気付きなよ馬鹿)





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