そして僕らは傷付け合う


どうしてハチが思い出さないのか、それは私にも分からない。
そもそも何百年も前に仲の良かった私達が記憶を持って再会すること自体奇跡なのだから、寧ろハチの方が自然だろう。とは思うのだが。
そうも簡単に割り切れないのが人間というもので。

……というか、まあ私達もショックだったわけだが一番酷かったのはやはり兵助だった。暫くハチと口も利けなかったくらいだ。
漸く話せるようになったは良いが、今でも少しぎこちない。
『竹谷』と呼ぶ兵助を見る度、『竹谷』を通して『ハチ』を見る兵助が顔を歪ませる度、私はハチに苛立った。


私達のことは良い。せめて、兵助だけでも思い出してくれたら。
甘え下手で人と付き合うのが苦手な兵助に、私達はすこぶる甘い。それは自分達でも自覚している。



「……なあ、久々知って俺のこと嫌いなのかな」



本を返しにきた兵助が自分のクラスへ帰ったあと、兵助の去った方を見ながらハチが呟いた。
兵助に興味を持ったのはこれが初めてで、雷蔵と顔を見合わす。



「……どうしてそう思うの?」
「いやさ、何か未だに仲良くなれた感が無いんだが。知り合った時期は同じなのに」



不満げに言うハチに少し苦笑を零す。
妙なところで鋭いというか、意外と見ているところはあの頃と変わらない。



「つーか、あいつ、久々知って、時々俺見て辛そうな顔すんだよな」



気付かなくて良いところまで気付くのだから、どうしようもない。そこは空気読めよ。
なんてつっこんでみて、ハチの表情に気付く。笑ってこそいるが、これは傷付いている時の顔だ。
……成程、存外こいつも繊細だったわけだ。

とはいえ。



「まあ、そこまで分かってるならどうしてそうなのか考えてみなよ。それが分かるまでは兵助に近付いちゃ駄目」
「は!?」
「お互い辛いだけだからね」



ニコニコと笑う雷蔵につられて私も笑う。
はっきりとは教えてやらない雷蔵は、厳しいんだか優しいんだか。
質は私よりも悪いだろうが。



「お前らは理由知ってんのかよ」
「そりゃあね」
「知らなけりゃ兵助とここまで親しくないさ」



五人が五人とも記憶を忘れていたのなら、私達はまた仲良くなれるだろう。
ただ、誰か一人だけが記憶を持っていた場合なら話は別。
どうしても重ねて見てしまうあの頃が頭の中でチラつく度、今の此奴と記憶の中の此奴は違うのだと思い知らされる。
だからあの頃と同じように笑いあえはしない。

だけど今回は五分の四だ。ハチが思い出す可能性は充分にある。と思う。


うんうん唸りながら悩むハチを見ながら、早く思い出せと、そっと声を掛けた。






(傷付けていると果たして互いに気付いているのやら)






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