いつか僕らが出逢うとき



『兵助、』
『もし、俺達が生まれ変われたら』
『戦も忍も、何も無い平和な時代に生まれ変わることが出来たら、』
『そしたら、……もう一度、俺と―――』





――ここ最近、何度も同じ夢を見る。
俺達がまだ忍だった時代の、……ハチが死ぬ直前の夢。
俺達の前世が忍だったことは、割とはっきり覚えている。……当然、俺とハチが想い合っていた、ということも。

ただ、どうしても最後の言葉だけは思い出せなかった。


ハチが最後に何を言いたかったのか、予測することは出来る。でも、予測では意味が無い。ハチから直接聞きたかった。

しかし、俺は未だに『ハチ』には逢えていない。



「へーすけーっ! おっはよー!」
「おう勘ちゃん。おはよ」
「相変わらず低血圧だねえ。顔怖いよ」



あの頃クラスメイトで仲の良かった勘ちゃんとは幼馴染という間柄になった。彼も俺程ではないが記憶があり、保育園で再会した時は抱き合って喜んだものだ。
同じ高校に進学した俺達は、こうして毎日一緒に通っている。
余談だが、三郎と雷蔵も同じ高校である。

――……それから、『竹谷』も。



「……兵助、またあの夢みたんだね?」
「え、……うん、見たけど、何で?」
「顔に書いてるよー。分かり易いんだから」



笑う勘ちゃんに苦笑。親しくない奴には表情が読めないと言われるのに、何故かこいつらにはすぐバレる。
曰く、俺は感情がすぐ顔に出るらしい。何という皮肉。

思えば、あの頃も此奴らにだけはすぐ気持ちを読まれていたように思う。……ああ、それから、委員会の年上の後輩も妙に鋭かった。ハチと喧嘩したらすぐにバレて、よく諭されたもんだ。
一人思い出して笑うと、勘ちゃんに変な顔をされた。





学校に着いてすぐ、三郎に借りていた本を返さなければならないことを思い出した。正直彼らの組にはあまり行きたくないのだが、まあ仕方ない。
勘ちゃんに一言断って、三郎達のクラスへ向かう。



「さぶろー」
「……おや、兵助。どうした?」
「これ、本、返しに来た」
「おはよー、兵助」
「おはよう、雷蔵」



教室を覗くと三郎と雷蔵、と、『竹谷』が談笑しているのが見えた。
そう、竹谷八左ヱ門は俺達と同じように生まれ変わっている。ただ、奴は。



「おー久々知。おはよー」
「……おはよう、竹谷」



奴は……竹谷は、俺達のことを覚えてはいなかった。
再会した時はそりゃあもう驚いた。俺達の中でただ一人、ハチだけが覚えていないのだ。
悲しくて、慣れるまでは辛くて仕方が無かった。あの頃のハチと重なって、自分だけ約束を覚えている現状が惨めで。
三郎なんかには、耐えられないのなら忘れて仕舞えとよく怒られた。だけどそんな論理的に切り替えることなんて出来るわけも無く。

約束にズルズルと縋って、今日まで友達の友達という微妙な関係を続けている。



「大分普通に接せられるようになったな」
「そりゃあ、もう一年経つしな。そろそろ慣れないと」
「……別に、無理に慣れなくても良いさ。多少変な態度を取っても彼奴は気付かん」



飄々と言ってのける三郎に苦笑する。しかし、この物言いだとか、態々廊下に出てくれたりだとか、よく考えると此奴は優しい。指摘しても否定されるだろうけど。

そんな三郎に感謝しつつ、その後暫くどうでもいい会話を交わしてクラスへ戻った。

クラスへ戻ると勘ちゃんが怒っていた。どうやら三郎と話し込み過ぎたらしい。
「俺を放置し過ぎ!もう今日の放課後デートだかんね!」と怒ってるんだか拗ねてるんだか分からない言葉に笑ってはいはいと答える。

それが俺達の日常なわけで。
いつか竹谷をハチと呼べる日が来るのか分からないけれど、俺は今でも確かに幸せと言えた。






(竹谷が俺を見て「兵助」と呟いたことは、誰一人気付かないまま)






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