君と

*お酒は20歳になってから!
*ちょっと兵助の過去捏造







思えば昔から、あまり関わりのなかった子だと思う。
よく悪戯を仕掛けてくる三郎や勘右衛門、素直に慕ってくれる八左ヱ門と雷蔵、とは、僕らもよく関わっているなあと思うのだけど。
五年も一緒にいるのだから関わらないってことはなかったけど、それにしても委員会関係のこととか、必要最低限の会話しかしたことがなかったような。
五年生とか後輩にはよく笑顔を見せているのを見かけるし、人見知りってわけでもないみたいなんだけど。

――と、僕が言ったからなのか、単に五年と遊びたかったからなのかは知らないが。

「どうしてこうなった……!?」
「う……ぷ……」
「わーっ、勘右衛門吐くなら外!」
「…………っ」
「ら、雷蔵、三郎も吐きそう!」
「うわわわ吐くな吐くな!」
「なんでこうなった!?」
「「うるさい八左ヱ門こっち手伝え!」」
「理不尽!」

勘右衛門と三郎の背中をさする三人を見つつ苦笑い。
小平太に強制連行されたらしい勘右衛門と三郎が今にも死にそうな顔をしている。
たぶん酔ったんだろう、可哀想なことをした。
て、まあ他の三人も訳も分からず六年長屋に連れてこられたんだろうけど。

「いやあ、すまんすまん! ついな!」
「ついじゃないぞお前……! これから飲むってのに先に酔わせてどうする!」
「え、飲むって……」
「上物が手に入ってな。お前達も酒盛りくらいしたことはあるだろ?」
「三郎勘右衛門! 酒だって!」
「やったなお前ら! ちょうど飲みたがってたじゃん!」
「ちょ、う、嬉しいけど……」
「揺らさないで……!」

酒盛りと聞いてテンションの上がった雷蔵と八左ヱ門に揺さぶられ、三郎と勘右衛門の顔色は益々悪くなっている。
しかも二人は気付いていない。本当に酒飲みたかったの君たちじゃないのか。
止めた方がいいかと立ち上がりかけると、兵助がこんと雷蔵たちの頭を小突いた。

「二人とも、三郎と勘右衛門が本気で吐くぞ」
「えっ、あ、ごめん三郎!」
「すまん! ついテンション上がって!」
「「…………」」
「ほら、手ぬぐい濡らしてきたから暫くじっとしてな」
「「……兵助さん……!」」

仙蔵の目が楽しそうに光る。
ああそうだった、今回の飲み会は兵助との親睦を深めようとして開いたものだったんだっけ。一応。
いつの間に手ぬぐいを濡らしてきたのかと思いつつ、気分の悪そうな二人を隅に追いやって酒盛りの準備を始める。
気配り上手なんだな、と観察して。

「久々知は酒強いのか?」
「あー、正直そんなに強くないです」
「でもこいつ、普段酔うまで飲まないんすよ!」
「ねー、僕らなんてがぶがぶ飲むのにさあ」
「お前らが泥酔して凄い有様になるから飲めねえんだろうが……」
「久々知も苦労してんだなあ……」

酒を雷蔵と八左ヱ門に手渡して、溜息をつく兵助に留三郎が苦笑する。
さすが留三郎超自然! と内心で親指を立てる。たぶん理解してくれたと思う。

「……食満先輩はどうなんです?」
「俺もあんまり強くはないなあ。でも大抵伊作に飲まされるか、文次郎と飲み比べして潰れる」
「あー、なんか想像つきます。勘右衛門がそのタイプですよ」
「へえ、意外だなあ。学級は巻き込みそうなのに」
「まあ普段はそうですけど、酒の席になると立場が逆転しますね」

すごい、すごいぞ留三郎! 君も普段兵助と関わらないと言っていたくせになんだその自然な感じ!
僕も会話に入りたいな……と入るタイミングをうかがっていると、ようやく学級コンビが復活した。

「あーもう! 七松先輩ほんとやだ! なんであんな、なんで酔うの? あ、伊作先輩注ぎますよー」
「あ、ありがとう」
「ていうか、なんでお前らは七松先輩コースじゃないんだよ! 特に八左ヱ門!」
「俺!?」
「雷蔵と兵助はまだ分かる! 八左ヱ門はどっちかというとこっちだろ!」
「どういうことだ!」
「日頃の行いだろ」
「どういう意味だ兵助てめえ!」

食って掛かる三郎をしれっと避けつつ、それぞれ談笑している六年に酒を注いで回る。
ていうか、兵助と関わり隊はどうした君達。
長次なんて雷蔵と仲良く飲んでるし! やっぱ五年が委員会にいるといいなあ……。

「まあまあ、そんな怒るな三郎! 飲もう飲もう!」
「えっ、先輩? 私酒弱いんで……って聞いて! 注ぎすぎですからこれ!」
「三郎七松先輩になんかしたのか?」
「してねえよ!」
「勘右衛門はなにちゃっかり団子食ってんの?」
「えへへ〜、立花先輩がくれた!」
「餌付けっていうんだそれ」
「ほう、八左ヱ門、飲み足りなさそうだな」
「いや! そんなことは……すみませんそんな注がないで!」

早速弱い組が悪酔いし始めたのを横目で見つつ、兵助に視線を戻す。
他の五年が絡まれているのを見て笑っていた。酒は進んでなさそうだ。
留三郎はどこへ行った、と思ったら文次郎と飲み比べしていた。いつの間に。

「……へいす、」
「伊作飲んでないなあ!? もっと飲めえ!」
「ちょっ、小平太!?」
「あははっ! 三郎ってばもう潰れちゃってる! 相変わらず弱いなあ!」
「雷蔵、笑ってやるのはよくない。押入れに布団があるからそれを持ってきなさい」
「な、中在家先輩の声が聞こえる……!?」
「ああ、長次は酔うと音量が上がるタイプなんだ」

兵助に声をかけようとしたのに、小平太に遮られてしまった。
こんな時に不運発揮しなくていいよ! と思いつつ、溜息。
ほら兵助が飲まずに三郎の介抱し始めちゃったじゃん! とは言えず。

「ふははは! こんなもんか留三郎! 俺はまだまだ飲めるぞ!」
「うるせえ! 俺だってまだまだ飲めるわ馬鹿文次郎が!」
「おおーっ、先輩方すごい! もうすぐ瓶三つ目空きますよ!」
「かんえもん……もっろのめえ!」
「ぐふっ……! た、立花先輩、おれほんと酒弱くて……!」
「いーからろめー!」
「あはははは! 呂律回ってませんよ先輩!」
「ああもうほら小平太飲んで! ほらもっと飲め!」
「あっはははは! あーなんか天井がぐるぐるするぞ!」

カオスだなあ、と他人事に思ってしまうほどには酔っていた。
ペースが早かったのは五年がいたから、テンションが上がっていたのだろうか。
みんな五年好きだもんなあ。



暗転。



「――」
「――――」

誰かが話している声が聞こえて、意識が浮上した。
辺りに漂う酒の匂いと、目の前に目が書かれた勘右衛門の寝顔があって、酒盛りをしていたことを思い出す。
じゃあこの話し声は先生か!? と、慌てて体を起こそうとすると、そっと誰かに制された。
曲者!? と思って見上げたら、隣で寝ていたはずの仙蔵だった。
しい、と口元に指を当てられて黙り込む。
冷静になった頭でよく見ると、寝ていたと思ったみんなが目を覚ましていた。
何をしているのかと思えば。

「……しかし、珍しいよな。先輩に誘われるなんて」
「まあな。お前、そうそうに潰れてたけど」
「まさか七松先輩に潰されるとはなあ」

木戸の向こうから聞こえる囁くような声は、三郎と兵助のもの。
僕らがみんな酔い潰れたから飲み直しているらしい。
なに人の会話盗み聞きしてるんだと思いつつ、起きていることがばれないようにみんなに倣って寝た振りを続行する。
他の五年を見る限りいつものことみたいだし、まあいいだろう。

「お前は相変わらず世話役してたなあ」
「お前が弱いからな。でも先輩方が酔ってたの見るのは面白かった」
「私見れてないんだけど、どうだったの」
「食満先輩が泣き上戸だった。あと潮江先輩は壁に説教してた」
「っ……待って、それ超見たいんだけど」
「でも善法寺先輩が人骨について語りだして怖かった」
「……虫の話する八左ヱ門みたいな?」
「いや、真顔」
「それは怖い……」

ぼ、僕そんな酔い方してたのか……。
いつも最後に酔うから知らなかった。みんな酔ったあとのこと覚えてないし。
ちらっとみんなを見てみると、留三郎と文次郎が顔を押さえていた。恥ずかしいらしい。
仙蔵も顔を押さえていた。面白いらしい。

「雷蔵は相変わらず笑い上戸で、普通の大きさの声の中在家先輩に窘められてた」
「……聞き取りやすかったろうな、それは」
「八左ヱ門も虫のこと語りだして、七松先輩に爆笑されてた」
「なにが面白かったんだろうな」
「勘右衛門も、呂律の回らなくなった立花先輩に飲まされて、すぐに潰れてた」
「今回は逃げてたと思ったけど、結局か。そういえば勘右衛門、落書きされてた」
「ああ、あれ、立花先輩」
「やっぱりか……」

勘右衛門が、何書かれてんの!? という顔をした。
表情を変えないでほしい、何人か吹き出しそうだから……!
特に仙蔵(犯人)が。

「……俺さあ」
「うん?」
「昔先輩に虐められて、からずっと先輩が怖かったじゃんか」
「……うん」

え、と出そうになった声を慌てて呑みこむ。
そんな話は知らない。

「潮江先輩とか立花先輩は、何度か助けて貰ったから、怖くないんだけど」
「うん」
「他の先輩のことは、優しい先輩だって頭では分かってたけど、やっぱり怖くてさ」
「うん」
「だから今日、誘われた時も迷ったんだ」
「……うん」

思わず仙蔵と文次郎の方を見る。
二人ともとても不自然な寝た振りをしていた。
なんだその芸術的な寝方は。顔を見せなさい。

「でも、雷蔵と八左ヱ門に引っ張られて来てみてさ。食満先輩とか、善法寺先輩とか、俺が一人になった時気にかけてくれたり、潮江先輩とか立花先輩とか、他の先輩の相手してくれたり、七松先輩とか中在家先輩も、俺が怖がってたこと気づいてたみたいで、気にしてくれてるって分かってさ」
「……ああ、」
「お前達も、ちょくちょく気にしてくれてるって気づいて」

微かに笑うような兵助の声に、さっきまでの飲み会の光景を思い返す。
留三郎が話しかけた時すかさず会話に入った雷蔵と八左ヱ門、自分から六年生に絡みに行った勘右衛門と三郎、留三郎に喧嘩を吹っかけて兵助から離した文次郎、兵助以外の五年生に絡んでいた仙蔵、兵助に声をかけようとしなかった小平太と長次。
みんな、知っていたのか途中で気づいたのか。
言ってくれよそれは……!
と、留三郎も同じような顔であたりを見回していた。
兵助が怖がってなくてよかったものの!

「この人達は、あいつらとは違う。優しい人達だって、ほんとに分かったから」
「うん」
「もうあと一年もないけど、ちょっとずつでも関わって行こうって思う」
「うん……そっか……うん……!」
「……? 嬉しそうだな」
「いや……兵助も成長したなーってさ」
「ふは、親かお前は」
「笑うなよ、だってお前の葛藤とか、ずっと見てたんだぞ。今日だって食満先輩と普通に話してて、勘右衛門なんか感動で泣きそうになってたんだから」
「え……ああ、そうなのか」

柔らかい空気が漂う。
知らなかったとはいえ、そんな話聞いたら僕も感動しちゃうよ。
留三郎が顔を押さえた。今度は感動しているんだろう。忙しいな。

「でも良かった。俺もなあ、ずっと心配してたんだぞ……」
「……あ、酔ってんな?」
「酔ってねえよ……俺だってなあ、あの人達が優しいってずっと気づいてるっつうの」
「酔いだしたな。自覚すると早いもんな」
「へえちゃんったら冷静ね……」
「後輩のセリフをパクるな」

本格的に酔い始めた三郎の会話に笑って、勘右衛門がすっと立ち上がった。

「……兵助? また飲み直してたのかあ」
「ああ、勘右衛門、起きたの」
「ふはっ、勘右衛門、目が四つある……」
「うわあ、三郎酔ってんなあ」
「……いや、ほんとに、四つある……」

兵助の言葉に、笑いを耐えていた誰かが思いっきり吹き出した。
おいおい、と少しだけ慌てつつ、もうこれ逆に起きないと不自然だよね? と周りに寝ている奴らと視線で会話して。

「あ、みんな起きたみたい」
「ぶはっ、勘右衛門こっち向くな! なにその顔!」
「え、そんなに変な顔してる!? おれどんな顔してんの! ほんとに!」
「あっはははは! すっごいそれ……!」
「……っ!」

振り向いた勘右衛門の顔が、落書きのせいで本当に面白くて。
酔いが残っているせいか、さっきの兵助の言葉が嬉しかったせいか、みんな妙に笑いのツボが浅くて。
仙蔵や文次郎なんて声も出ないほど爆笑していた。

この数秒後、笑い声がうるさいと注意しに来た木下先生によって酒盛りがバレて、全員一週間の生物小屋掃除をさせられるのだけど。
全員でやったからか、罰なのにそれすらも楽しくてはしゃいでしまって。
結局全員、木下先生に一つずつ拳骨を貰ってしまったのだった。







――
兵助ってあんまり六年生と絡まないというか、名前呼びされないなーと思って。
他の五年は割と呼ばれてるんだけどなー? というところから妄想。
最近この二学年が好きすぎて困る。こいつら魔力持ってると思う。

ではでは、ここまで読んでいただきありがとうございました!


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