涙を隠して

*年齢操作
*死亡描写
*転生





五年生は仲良しだった。私達と五年生は酷く仲が悪いというわけではなかったが、その仲の良さは当時の私達には平和ボケしているように見えて、何度苦言を呈したか知れない。
その度に返される皮肉の意味も、五年生の本当の気持ちも、私達が理解するには未熟だったのだ。



学園を卒業して、私は城付きの忍びとなった。
城主はこの時代における火薬の大切さをよく理解している方で、私の火薬の研究も快く許可してくださっている。
設備も環境も良い城だったが、はじめの一年はプロと忍たまの差に随分と辟易したものだ。
最上級生、プロと並ぶ腕前だと言われていても、所詮は忍たま。私達はどれだけ守られていた存在だったのかを思い知らされた。
そんな中で思い返すのは、苦楽を共にした同胞達の顔。
フリーになったのか、城仕えになったのか、はたまた派遣になったのか。誰がどの道を選んだのかは敢えて誰も言わなかった。
忍術学園には入学式も卒業式も無いので出て行く日は人によるのだが、文次郎や留三郎などはそれすら言わなかったのだ。
そんな薄情者ばかりだけれど、どうかもう二度と再会しないことだけを願っている。
もしもあいつらと死合いをすることになったら、その時、私はあいつらをこの手で殺すことが出来るだろか。
答えは今も見つからない。


そんな現実をひしひしと感じている最中、少しだけ心が明るくなる出来事があった。
翌年、一つ下の後輩、久々知兵助が同じ城に就職してきたのだ。
兵助は私がこの城に仕えていたことは知らなかったらしく。
しかし、私を見た時は一瞬驚いたのちすぐに嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。
その笑みは学園にいた頃となんら変わりのないもので、妙にほっとしたのを覚えている。
私が火薬の研究をしていることを知ると、いつの間にか兵助も参加するようになった。
火薬委員長を務めていただけあって兵助の火薬の知識は素晴らしく、研究は益々発展していった。

「よし、では次の戦で使わせてみよう」

楽しかった火薬の研究は、一つの兵器を生み出してしまった。
城主の言葉に頭を下げるが、胸中は複雑だ。だって、火薬一掴みでどれだけの被害が出ると思う。
仕方ないことだと分かっているものの、素直には喜べない。
しかも、次の相手の城には。

「勘右衛門がいるんですよね、その城」
「なっ……!」

兵助達の学年は私達と違って、卒業後の道も卒業の日も全員で共有したらしい。
さすが仲が良いな、と言った私に兵助は苦笑してゆるく首を振った。

「覚悟するためです。敵として会った時は情け無用、容赦も躊躇もしないと」

思えば昔から、一つ下の学年は忍びとしての矜持をどの学年よりも持っていたように思う。
三郎を筆頭に、顔も本心も実力も、切り札のように、全員が何かしらを隠していた。
地味だなんだと言われていたが、奴らの成績は歴代でも一位を誇っていたのを知っている。

『忍びにとって「地味」は褒め言葉ですよ? だって、派手なあなた方よりも沢山切り札を持っているってことなんですから』

かつてあいつらを揶揄した時に返された皮肉を思い出した。
そして、勘右衛門を殺してしまうかもしれない兵助の覚悟をまざまざと思い知らされた。



城主の命令から十日後。
勘右衛門の仕えている城との戦によって、私と兵助が作った火薬が使用された。
その威力は凄まじく敵側に甚大な被害を与え、敵城は降伏することとなる。

捕らえた忍び組の中に、勘右衛門はいなかった。

「……兵助、勘右衛門は」
「向こうの忍び組の組頭に聞きました。……、勘右衛門はあの爆発に巻き込まれたそうです」

冷静な兵助の言葉に目を見開く。
直接手を下していないとはいえ、私は後輩を殺してしまった。
呆然とする私に兵助は苦笑して、すみません、と一言呟いた。

「……何故お前が謝る」
「……勘右衛門のこと、言うつもりは無かったのですが。…………先輩の顔を見ると、つい」

その言葉に、私は分かりやすく不機嫌な表情になる。
確かに勘右衛門を殺してしまったことはまだ昇華できていない。
だが、後輩に気を遣われるほど落ちぶれたわけでもない。

「……阿呆、私に気など遣うな。……兵器を造ってしまったのは私も同じ。共に痛みを分け合わんでどうする」

兵助は微かに目を見開いて私を見た。
その目には薄っすらと水の膜が張っていて。
……ああ、冷静なやつだと思っていたが、こいつもきちんと人間だったのだな。

「泣くなら今のうちだぞ」
「……いえ、すみません」

肩も拳も震えているのにそれをキツく握りしめて、兵助は乱暴に目元を拭った。
次に私を見つめ返した兵助の目は、既にいつもの強い光を放っている。

「約束したんです。仲間が死んでも泣かないって」

言葉を失った私に、兵助はふわりと微笑む。そこにさっきまでの悲痛な空気はない。

「それに、泣くのは友として再会できた時だけですよ」

ああ、強いな。そう思った。


兵助も勘右衛門も、一つ下の奴らはみんな、この時代を忍びとして全うすることの厳しさを理解していたのだろう。
それこそ、学生時代の頃からずっと。
だから彼らは仲が良かった。
守られている平和な日々が、とても尊いものだと知っていたから。仲間と共にあれる日を、一日、一日大切に過ごしていた。


その後、兵助は二十余年を忍びとして全うし、最期は上司を庇って死んだ。
皮肉にも、私達が造った兵器によって。
兵器は時代とともに消滅したが、沢山の人の命を失ったことに変わりはない。

私は二度と同じことが起こらぬよう、これを未来永劫語り継いでいこうと思う。






桜吹雪の中を、四人の男子生徒が歩いている。ふざけ合い、笑い合う姿はとても微笑ましい。
そんな四人の歩く先には、大きな桜の木が聳え立っている。
その下に、一人の男子生徒が佇んでいた。

男子生徒は四人の姿を見つけると、みるみるうちに特徴的な大きな目を潤ませ、綺麗な顔をくしゃくしゃにしてぼろぼろと大粒の涙を零した。







修正 15.05.30



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