追う傷

*ちょっと五年生vsタソガレドキの時の話
*ちょっと映画版園田村の話
*ちょっと大運動会の話
*兵助の矢傷
*過去の委員会捏造






焙烙火矢を投げた時、「ああ、まだ肩を使うのが怖いのだな」と思った。本人は少しも表情には出さなかったが。
投擲武器が得意な八左ヱ門には劣るものの、久々知の投擲の力と精度はあんなものではないと五年生も六年生も知っている。

夏休みに起きた宿題入れ替わり事件。
久々知は運悪く六年生の課題を引き当ててしまった。
こなしたのはさすがだったが、右肩には矢傷を負って、その後数日熱に魘されていた。しかも熱が下がってすぐ騒動に巻き込まれ、肩を酷使してしまったのだ。
一応あまり肩を使わないように後輩に手伝わせたりしていたが、事態が事態なだけに無理せざるを得ない状況で。
全てが終わって学園に戻った後、昏倒して医務室に運び込まれた。

「久々知、」
「ああ……だが、あれは私達ではどうにもならん」

完治した後、久々知が努力に努力を重ねて落ちてしまった精度と筋力を取り戻そうとしていたことは知っている。
怪我をした場所に、力を込めることの怖さも。
だから今でも時折、肩では無くて腕に力を入れて物を投げるようになってしまっている。

下から投げた八左ヱ門の虫壺が上から投げた久々知の焙烙火矢に当たったのは、久々知の力が足りなかったせいだ。
だが、俺達がどうこう言って解決出来るもんでもない。
克服しなければならないことは本人が一番分かっているだろう。

「歯がゆいなあ」
「それは、皆同じだ」

優秀な者が多い五年の中でも、精鋭に分類される久々知は六年も一目置いている。
加えてその精神力と気の強さ。
絶対に乗り越えてみせろと、誰もが思っていた。






ガンっと飛んできた銚子を弾いた文次郎の手の甲は真っ赤になっていて。
「久々知くん失格ー!」というユキちゃんの声が高らかに校庭に響いた。

「すみません、大丈夫ですか?」
「? ……あー、ああ。しかし何でこっちに、」

競技が終わってから駆け寄ってきた久々知は、文次郎の問いに苦笑して「乱太郎と伏木蔵がいたでしょう」とぼそりと言った。
なるほど。確か久々知は昔保健委員だったことがあるから、余計に不運タイフーンが起こったらしい。
……伊作に引っ張られなくて良かった。

「それにしても、お前、力強くなったな」

真っ二つに折れた銚子を見る。
文次郎は弾いただけだから、久々知の投擲の力と不運タイフーンの加速が加わってかなりの速度になっていたんだろう。
不運タイフーンのせいだけなら、久々知の不運はプチじゃない。
それは本気で笑えねえ。

「……散々鍛えなおしましたからね」

俺の言葉に、久々知は苦笑を零して右肩を撫でた。
こうなるまでどれだけの努力をしたのかは、知らない。
でも、そこに努力があることは分かっているから。

「そうか」

頷いて、笑う。
褒める気はない。努力するのは当たり前だからだ。
褒めたい気持ちがあったとしても。

久々知は俺に微笑を一つ向けると、文次郎の手を引いた。

「潮江先輩、手当するんで救護所行きましょう」
「いや、これくらい」
「行きましょうね」
「お、おう……」

伊作がたまに見せるような黒い笑みを見せて、久々知と文次郎は救護所へ向かって行った。

俺も次の競技に行くかと踵を返した時、ずっと見ていたのか背後で雑渡昆奈門がぼそりと呟く。

「……久々知くんか、面白いね」

反射的に振り返って、睨みつけた。

「俺らの後輩に手ぇ出したら、ただじゃおかねェぞ」

そう捨て置いて、今度こそ踵を返してその場を去る。
雑渡昆奈門が俺を面白そうに見ていることには、気付かない振りをして。

「俺ら……ね。本当に、この学園は面白い子が多いなあ」

上司と部下ではない、先輩と後輩という関係をどう思っているのかなんて、知る気も無い。









――
原作を通して見る兵助の葛藤と成長でした。
対雑渡戦で「兵助は肩が弱いのかな」という考察をどこかでお見かけしたので、なら矢傷のせいだろう!と更に妄想。
後遺症というほどではないけど、肩を使うのが少し怖くなったりとかちょっとあったんじゃないかと。
大運動会は、兵助文武両道だし乱定剣が苦手ってのはちょっと考えられんと常々思ってたので不運タイフーンということに。
まだ兵助の委員会が出てなかった頃保健委員じゃねーかと噂されてたこともあったし、元保健委員というのもありかと。
まあ元保健委員じゃなくても、勘ちゃんより巻き込まれ体質っぽい気がする。生物委員とか生物委員とか生物委員とかね。
馴染む子だからちょくちょくその場の空気には巻き込まれそうです。悪い意味でも良い意味でも。

六年と五年は、付き合いの長さだとか歳が近いこととかであんまり甘え甘やかしはしないかな、と。お互い信頼し合ってるけど必要以上に干渉し合わないような。兵助とは特にそんな関係のイメージ。
ちょっとまたこの複雑なところ書きます。

雑渡さんとか利吉さんとか、幼い頃から忍になるために育ってきた者からしてみれば学園って結構異質なものだと思うんですよね。忍にならない子もいるわけですし、学園を卒業したら敵対する可能性もあるわけで、その未来を知らないわけでもないのにどうして無条件で後輩を守れるのか、とか先輩を慕えるのか、とか。
そしてそんな関係が眩しくもあって欲しいとも思います。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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