まったりな


実習が終わって自室へ戻る途中、中庭で五年生がじゃれ合いのような組手をしていた。毎度ながら楽しそうというか暇そうというか。

溜息をついて前を見ると、向こう側の窓の近くに笑っている久々知を見つけた。
声をかける前に気配を察したのか振り返った、こういうところは優秀なんだよなあ。


「潮江先輩」

「楽しそうだな、お前ら」

「先輩はしんどそうですね」

「実習帰りだバカタレ」

「徹夜するから余計辛いんですよ」


うるせえよ、誰のせいで委員会長引いていると思ってんだ。
いやまあ久々知のせいではないけども。

窓枠に肘をつくと、久々知はちらっと俺を見て腕を組んで壁にもたれた。見た目が良いとこういうさり気ない仕草でも絵になる。


「暇そうだな」

「見てるのも楽しいですよ」

「ふーん」

「実習、なんだったんですか?」

「戦況調査。近場の戦の」

「ああ。お疲れ様です」


俺も久々知も視線は五年生の組手に向いている。
暗器使いばかりの五年生は隙をついたり相手の力を利用するので、俺達とはまた別の戦い方、というか、割と学ぶことも多い、と思う。
全力で忍者ごっこをしていても。


「お前らは?」

「木下先生が出張で昼から自習になって、その延長です」

「自由だなあ」

「楽しいですよ」

「それは、見たら分かる」

「そうですか」


あ、今わざと力抜いたな、とか、もう一歩踏み込んだら届いたのに、とか、頭の片隅で考えながら久々知と駄弁る。

割とこういうまったりした時間は嫌いではない。
というか、久々知といるといつも何故かこういう空気になってしまう。
こう、気が抜けるというか、削がれるというか。


「あ、先輩、今日の晩ご飯知ってます?」

「知らんが豆腐料理だということは分かった」

「正解、揚げ出しです」

「良かったな」

「はい。今からもう楽しみで楽しみで」

「そうか」


ここからでは表情が見えないが、満面の笑みであろうとは予想できた。
豆腐を前にすると普段の無表情もあっさり壊れると、驚いたのは最初だけで今はすっかり慣れたもんだ。

留三郎が豆腐で餌付けしようとしていた時はさすがに呆れたけど。


「ねえ先輩、夕飯一緒にどうですか?」

「珍しいな。あいつらと食わなくていいのか? 俺は豆腐やらんぞ」

「あいつらだって毎回くれるわけじゃないですよ」

「そうなのか?」

「なんで驚くんですか?」


そりゃああいつらがお前に豆腐をやらなかったところを見たことがないからだ。
とは言わず、適当に濁す。

久々知は一度俺を見て、首を傾げてからまた前を向いた。気にしない奴ってほんと楽だと思う。
まあ、この淡白さのせいで本当に付き合ってるのか疑われたこともあったけど、それは昔の話だ。


「お前、晩飯までずっとここにいるのか?」

「いや、もう少ししたら委員会行きますよ」

「内容は?」

「今日もすぐ終わります」

「そうか」

「なんです、」


か、と続けようとした久々知を無理やり振り向かせて口付けた。


「…………」


いつもは口吸いの一つや二つ余裕で受けるのに、真っ赤になって目を見開いている。
そんな表情閨の時でもしねえくせに、不意打ちには弱いってことか。


「……珍しいなあ」

「な、なん、なんなんですかっ」

「いや、つい」

「はあ……っ!?」


テンパってても小声なところがまた可愛い。

大丈夫大丈夫、誰も見てなかったし。ちゃんと確認してしましたよ。
そう言ってやれば安心したように息を吐いた。別に俺は見せつけても良いんだが、と言おうとして、以前そのせいで一週間無視された上に同級に散々からかわれたことを思い出し、思い留まる。


「焔硝蔵で待っとけよ、迎えに行くから」


にやりと笑って、まだ耳まで赤い久々知の頭をぽんと撫でてからその場を去った。

やらんと言ったが、どうせあの子犬のような目に負けて揚げ出し豆腐をくれてやるんだろうなあ、と数刻後の未来を思い描きながら。









――
ゆるいけどラブラブ。
兵助は無関心というか、「言いたくても言えない」のと「言う気がない」をちゃんと見分ける子だと思います。あとアニメ見てて、甘え上手なんだろうなあと思いました。原作とアニメで結構性格が違うけど、良い感じに混ぜていきたいです。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。


修正 15.05.30

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