大好き

*暴力描写





在庫管理しか仕事がなくて、「何をしているのか分からない、そんなことでいいんかい?」なんて揶揄されて。楽そうでいいな、とか地味で暇な委員会、とか軽視されて、笑われて。それなのに硝石を扱うから予算だけは高額で、他の委員会からの目も冷たい。
けれど、久々知先輩はどんな言葉で揶揄われてもいつも困ったように笑うだけ。委員長代理としてぼく達よりも風当たりが強いはずなのに、先輩は何も言い返さない。

だからぼく達は、久々知先輩が恥ずかしくない後輩でいようと思ったんだ。






「なあ、頼むよ」
「「駄目です」」
「火薬が欲しいなら許可証を持ってきてください」

ぼくと伊助とタカ丸さんの前には、眉間にしわを寄せる六年生が立っていた。久々知先輩はまだ来ていないので、それを知ってここに来たのだろう。
軽視されているとこういう輩が頻繁に来る。つまり、火薬の横流しをせびってくる輩が。

「少しくらい良いだろ!」
「駄目です」
「許可証を持ってきたら渡しますって」
「だから持ってきただろうが!」
「ぼくらだけなら見抜けないと思ったら大間違いですよ」
「偽書の術の見抜き方だって教わってるんです」

個人で火薬を使う場合、火薬免許を持っていない生徒は担任の先生と土井先生の許可証が必要になる。
用意したあたりはさすが六年生だが、こういう生徒に無闇に渡さないようにぼく達はしっかり久々知先輩に叩き込まれているのだ。
簡単に貰えると思っていたのか、六年生はイライラしているのが分かる。こういう輩は大抵短気で、対応するのも面倒くさい。

「お前ら、地味委員会のくせに偉そうだぞ!」
「地味でも、火薬管理の責任があります」
「先輩に逆らうのか!?」
「先輩だろうと、許可証が無いと火薬は渡しません!」
「っの!」

はっきり伝えると、六年生は青筋を浮かべて拳を振り上げる。その先には伊助がいて。

咄嗟に伊助の前に出た。
どごっ、という音がして、じわじわと頬が痛み出す。
驚いてぼくの側に膝をつく伊助と、六年生に殴りかかるタカ丸さんが見えた。

「っにすんだよ!」
「っ……!」
「タカ丸さん!」

殴られた六年生はタカ丸さんを突き飛ばして、伊助とぼくを睨みつける。
タカ丸さんは背中を強く打ち、顔を歪めた。

「くそ……! 先輩に手を上げたこと、報告してやるからな!」
「先に手を出したのはそっちでしょう!?」

六年生の言葉に伊助が立ち上がった、その時。

「何をしてるんですか……?」

呆然とした久々知先輩の声が、焔硝蔵に響いた。

「久々知先輩!」
「久々知……こいつらが俺に手ぇ出してきたんだよ! 後輩の躾も出来ねえのか!」
「何を……っ!」
「三郎次」

どこまでもムカつくことを言う。
言い返そうとすると、久々知先輩の静かな声が遮った。
先輩はタカ丸さんを見て、伊助の持つ偽物の許可証を見て、ぼくの怪我を見て、ぼくをひたりと見つめる。

「この人の言うことは本当か?」

いつもの冷静な目だった。
その目に落ち着いたぼくは、しっかり首を横に振る。

「この人がぼくを殴って、それに怒ったタカ丸さんがこの人を殴りました」
「そうか」

先輩は頷くと、ゆっくり六年生に近付く。
殺気も何も無いのに、何故か一歩も動けないだけの迫力があった。

「く、」
「俺の後輩に、手ぇ出してんじゃねえよ」

六年生の胸ぐらを掴み、ぼくらが聞いたこともない低くて怖い声。
固まる六年生に向けた目は、どこまでも冷たかった。

「な、なん……!」

瞬間、六年生が焔硝蔵から吹っ飛ぶ。
久々知先輩が殴ったのだと気付いた時には、既に先輩は外にいて。

「うちをナメるのは勝手だがな! 後輩に手を出して俺が黙ってるとでも思ってんのか!?」
「やめっ……た、たす……!」
「ふざけんじゃねえぞこの屑!」

先輩は六年生に馬乗りになって、何度も何度も顔を殴っていた。
寸鉄を使う先輩の拳は強く、六年生の顔の造形がみるみる変わってゆく。

「久々知! やめろ!」
「落ち着け!」
「兵助!」

騒ぎを聞きつけたのか、周りが騒がしくなる。
焦ったような先輩方の声が聞こえて、ぼく達の身体がやっと動くようになった。

「久々知先輩!」
「ぼく達もう大丈夫だから!」
「やめてください!」

久々知先輩を羽交い締めにする七松先輩と食満先輩が、ぼくの顔を見て合点がいったような顔をした。
ぼく達の声に、久々知先輩からゆっくりと力が抜ける。同時に纏っていた怖い空気も霧散した。

「……すみません、先輩方」
「処分は後だ。医務室へ」
「、はい」

六年生の先輩方は、久々知先輩の肩をぽんと叩いた。






ぼくとタカ丸さんの手当が終わった時、久々知先輩は医務室からいなくなっていた。
新野先生に学園長先生から呼び出されたのだと聞いて、慌てて三人で学園長先生の庵に向かう。

「えっ……」

庵の前には久々知先輩と仲の良い五年生と、委員長を務める六年生、四年生までが揃って中の様子を窺っていた。

「全て私の責任です」

庵の中から久々知先輩の声が聞こえて、勢い良く庵の中に入る。

「「久々知先輩は悪くありません!」」

中には久々知先輩と学園長先生と、土井先生と木下先生がいて。
四年生と五年生と六年生にも気付いたのか驚いたように目を瞠る久々知先輩に対して、先生方は三人共優しく目を細めた。

「確かに、火薬委員会は仕事をしただけじゃな」

学園長先生の穏やかな声に三人で頷く。

「じゃが手を出したのは浅慮じゃった」
「……はい」
「そうじゃのう……罰として、四人で焔硝蔵の掃除をすることを命じる!」
「…………へ?」

お茶目に片目を瞑った学園長先生の言葉にぽかんと口を開けて。
普段の委員会活動と変わらない罰則に、ぼく達は揃って久々知先輩に抱きつく。

「先輩、ありがとうございました!」
「兵助くんがいなかったらおれ達全員ぼこぼこにされてたよ!」
「助けてくれてありがとうございました!」

ぼく達の言葉に先輩は息を呑んで、ぎゅっと三人いっぺんに抱き締めてくれた。
先輩は何も言わなかったけど、その腕から、身体から、安堵と喜びが伝わってきて。

久々知先輩の後輩で良かったと、心の底から思った。







「久々知、火薬を貰いたいんだが」
「はい、今お持ちしますね。タカ丸さん、あと頼む」
「任せてー」

あれから数日が経ち、全快した六年生は下級生に私怨で暴力を奮ったと謹慎処分になった。
詳しくは知らないが、元からいろいろ仄暗いことをやらかしていたらしく。久々知先輩以外の五年生と六年生がしっかり灸を据えて、もう焔硝蔵には来れないようにしたと聞かされた。何をしたかまでは聞いていないけど、言いに来た尾浜先輩の表情からしてかなりえげつないことをしたのだと思う。

「三郎次、火薬貰えるか?」
「はい。伊助、田村先輩の分!」
「はーい」

仕事が無くて、地味で楽で暇。
軽視されることは変わらない。揶揄われることも。

けれどあれから、本気で軽視している人はほとんどいないのだと気が付いた。
あれだけヘタレだ暇だと言ってくる潮江先輩も、揶揄してくる安藤先生も。
その証拠に、潮江先輩にはあの後で「お前らが問題起こすと学園が回らなくなるだろうが!」と一発ずつ拳骨を食らったし、安藤先生には「もう感情を爆発させないでくださいよ、火薬委員会だけに」と嫌味混じりの駄洒落? を受けた。

「どうぞ」
「うむ。ありがとうな」
「はい、田村先輩」
「ああ。ありがとう、二人とも」

今こうして火薬を貰いにきている立花先輩や田村先輩からも小言を貰った。
他の先輩からも肩を叩かれたり、頭を撫でられたり。
全員に頭を下げた久々知先輩には厳しい言葉を投げた先輩もいたけれど、最後にはわしゃわしゃと頭を撫で回されていて。

「頑張ってるな」
「土井先生」
「おばちゃんに甘酒を貰ったから、早く終わらせてみんなで飲もう」
「「わーい!」」
「ありがとうございます」

確かに仕事内容は地味かもしれないし、仕事が早く終わる日も多いから暇に見えるかもしれないけれど。
しっかり者の後輩と、努力家のお兄さんと、優しい先生と、そして大好きな先輩がいて。
自慢の委員会だ。


火薬委員会は、今日も平和で穏やかに活動している。









――
かっこいい兵助が書きたかったんだよー。
本気で怒った兵助は末恐ろしいと思う。滅多に怒らないから余計に。だから兵助を引き剥がす役目を六年生の実力者にしました。
安藤先生すまんかった。駄洒落とか作れない。うまいこと言って貰いたかったんですけどねー。

あ、火薬免許持ってない生徒の火薬配給制度は捏造です。得意じゃなくても自主トレとかで火器使ったりはするだろうなーと思ったので。
しかし火薬はほんと原作でもアニメでも仲良さげで、五年生とはまた違う良さがありますよね。どっちも可愛いことには変わりないけど。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました!

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