微睡み

*勘右衛門と兵助同室設定





神無月も十五日を向かえ、朝夕の冷え込みも厳しいものになってきた。益々布団が恋しいどころか愛しい存在となり、よって一人で起きられないのが上級生にも何人か。
おれの同室者、久々知兵助もその一人である。

冷え込む朝、下級生どころか上級生も大半が寝ているという時間帯に兵助を起こす朝一番の忍務は始まる。努力の天才である兵助は誰よりも予習復習鍛錬を欠かさない。おれと兵助は五年から同室になったのだが、あの練習量には驚いたもんだ。
そんなわけで、おれは毎朝この時間帯に兵助を起こさなければならない。



「へーすけ、朝」
「…………」



兵助の寝起きはぶっちゃけ悪い。暴言吐かれないだけまだマシなのかもしれないけど、布団引っ剥がしてから目が覚めるまで終始無言なのだ。そして少しでも気に障れば睨まれる。朝からテンションの高い八左ヱ門はよくその標的にされていた。まあそれで気にする様な奴では無いけど。
かといって、寝起き悪いからという理由で起こさなければ機嫌の悪さは一日中で更に無茶な鍛錬をしようとする。
全く、困った同室者だ。



「へ、い、す、け! 朝! 鍛錬の時間だろ!」
「……、……」



空気が少し変わったからどうやら起きたらしい。よーし、あと一息。
おれは寝間着のまま、布団の中で丸くなる兵助の体に乗っかる。



「兵助! 自分で起きるのと八左ヱ門に起こしてもらうの、どっちがいい!?」
「……! ……おき、る」



この言葉を使えば十中八九兵助は自分から布団を出る、言わば切り札だ。
曰く、おれと同室になる前は八左ヱ門に起こして貰っていたらしい。が、おれとは違いかなり無理矢理だったとか。
どっちみち八左ヱ門は委員会の餌やりでこの時間に起きるからついでに起こしてもらった方がおれも楽なのだが、「八左ヱ門より勘右衛門が良い」と兵助がおれを選んでくれたことが純粋に嬉しかったんだ。だからおれはこんな億劫な仕事を続けていられる。



「おはよう、兵助」
「……はよ、勘右衛門」



上半身を起こしたは良いものの、やっぱりまだ寒いらしい。布団に座ったまま掛け布団をかき集める。で、くるまる。もこもこしてるしいつ寝るか分からない表情がいつもより幼くて可愛い。
可愛いけど、また寝られたら困る。



「兵助って。起きなよ」
「……うー……」



布団にくるまったまま顔だけ出した兵助は、眉を寄せて更に布団を抱き寄せる。そんでも葛藤はしているらしく何度も瞬きをする。
いつもなら大抵ここで、



「へーすけー! 起きたか?」
「…………。」



八左ヱ門がやってくる。
あからさまに嫌そうな顔もいつものことで、おれが八左ヱ門にバトンタッチするのもいつものこと。



「おはよう、兵助、勘右衛門」
「………はよ」
「おはよー。じゃあ八左ヱ門あと頼むねー」
「おう。よし兵助、顔洗いに行くか!」



問答無用で兵助を連れて行く八左ヱ門を見届けて、おれはもう一度布団に潜り込む。
上級生が起きるにはまだ少し早い時間帯。もう少し寝るのもいつものこと。

いつも通りの朝。いつ崩れるか分からないこの日常に安堵しつつ、そろそろ兵助が八左ヱ門に怒鳴る頃かなあなんて考えながら目を閉じた。











――
兵助は寝起き悪そうなイメージ。
上級生でいくと綾部、兵助、三郎、仙蔵が悪そう。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


修正 14.12.06


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