同じ視界




七松先輩は粗雑そうに見えて案外しっかり周りを見ている方だ。
彼の「細かいことは気にするな」という口癖は全てを受け入れた上での言葉だということを、知っている者は少ない。
きっと六年生の方々と私くらいだろう、と誇りに思っていたのだけれど。

「久々知、中庭の木」
「ああ、ジョウビタキが巣作ってましたね」
「ジョウビタキというのか」
「冬鳥ですよ」

委員会活動が終わった帰りに、実習帰りらしく頭巾も着けず全体的によれよれな久々知先輩に遭遇した。
挨拶をして通り過ぎようとすると、七松先輩が唐突に言葉をかける。意味が分からず唖然とするが、久々知先輩が考えることなく淡々と返したことに更に驚いた。

「せ、先輩、何の話ですか?」

金吾の声に先輩方はこちらを向く。頭の上に疑問符を浮かべる私達に、久々知先輩が微笑んだ。

「中庭にジョウビタキという鳥が巣を作ってるんだよ。冬になったら日本へ来る鳥でね」
「へえ! 見に行ってもいいですか!?」
「うん。人懐っこい鳥だから結構近くで見れると思う」
「金吾、明日行こう!」
「はい!」

さっきまでへばっていたとは思えないほど目をキラキラさせる金吾と四郎兵衛に久々知先輩は優しく笑う。
その後ろで笑う七松先輩は嬉しそうだ。

「先輩、生物委員会でもないのにお詳しいんですねえ」
「ん? ああ、訊いてくる人がいるから勉強したんだよ」

三之助が素直に尊敬の念を込めて言うと、久々知先輩はちらりと七松先輩を一瞥する。

「七松先輩が? 何故?」
「動植物の名前が知りたいそうだ。昔はいちいち中在家先輩や八左ヱ門を連れて行って訊いてたんだけど、怒られたんだよ」
「ははは! 久々知、後で鍛錬な」
「げ、ちょっ、勘弁してください!」

愉しそうに話す久々知先輩に、七松先輩が自分の頭巾をばさりと首に巻きつける。締められる前に私達に「委員会お疲れ!」と笑って、久々知先輩は逃げて行った。

「お前今夜迎えに行くからな!」

藍の背中に叫ぶ七松先輩はとても楽しそうだ。宣言された久々知先輩は、まあ、さておいて。

「久々知先輩、ご愁傷様です……」
「あんなぼろぼろになった実習後に鍛錬……地獄だ……」
「でも、久々知先輩と七松先輩って仲良しなんですねえ」
「だな。意外な組み合わせ」

苦笑を零す私と四郎兵衛に、金吾と三之助はのほほんと会話する。
好き勝手に話していると、七松先輩が振り返った。

「よし! 鍛錬のために晩ご飯食べて体力付けとかないとな!」

そんな必要ないと思います、という言葉は飲み込んで。
嬉しそうに三之助を引っ張る金吾と四郎兵衛を見ながら、私は七松先輩の隣を歩く。

「先輩、何故久々知先輩なのですか?」

久々知先輩にはうまくはぐらかされたけれど。
私の問いに、先輩はなんでもないことのようにさらりと答えた。

「久々知は話が通じるから楽なんだ」

先ほどの光景を思い出す。
突然の七松先輩の言葉に唖然としていた私達に対して、久々知先輩は考える素振りも見せず淡々と返していた。
……ああ、なるほど。

「先輩方は、同じものを見ているのですね」

私の言葉に七松先輩は一瞬きょとんとして、大きく口を開けて笑った。

七松先輩のことを理解していたのは私や六年生だけでは無かった。
むしろ、同じものを見れる久々知先輩が一番近い場所にいる。
それが少しもどかしく、羨ましいけれど。

私も先輩方のようになりたいと、そう思った。










――
胆力のある人は、小さなことにも目を向けられる人なんだそうで。些細な変化に気付いて予測・対応出来るから驚かないんですって。
五年六年の中で一番胆力あるっつったらこの二人かなあと。
以下妄想。

小平太は勉強はともかく馬鹿ではないと思ってます。全部分かってるからいろいろすっ飛ばした会話をして周りに馬鹿と思われる的な。で、知識欲もあって昔から長次や八左ヱ門に「なぜなにどうして?」してたら可愛い。
滝夜叉丸は知らないけど五年生六年生は全員小平太の本質を知ってる。
兵助は変化に気付いても興味が無ければとことんスルーする子、のイメージで、小平太に訊かれるようになって勉強するようになったという。
この二人はなんとなく似てる気がしてたんですが、どこが似てるのか説明出来なくて歯痒い思いをしてたので満足。小さい頃の二人とかまた書きたいですね。

ではでは、ここまで読んで頂きありがとうございました!

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -