伝わる
お前は本当に久々知を好いているのか、と仙蔵に言われた。
お前は気持ちを表現するのが下手だから、と伊作に言われた。
そんなんじゃ久々知に嫌われるぞ、と笑ったのは留三郎で、
久々知を泣かせたら貰うぞ、ととんでも無いことを嘯いたのは小平太だった。
挙げ句の果てに長次まで「うまくいく恋愛」なんて本を渡してくるもんだから、
全員まとめて部屋から追い出した。
伝わる
「あいつらは俺をなんだと思ってんだ」
「心配してくれてるんですよ。愛されてますね先輩」
どちらかと言うとお前が愛されてるんだと思うのだが、と隣で微笑む恋人の顔を盗み見る。
部屋で帳簿の計算をしていると火薬委員会の予算案を持ってきたので、会話のネタに振ってみた。
話を聞き終えると久々知は珍しく大笑いしていた。なんだか微妙な気分になる。
「確かに先輩ってあんまり言葉にしませんよね」
「お前もそんなに言う方じゃないだろ」
「俺は閨の時言いますし!」
「やめんかバカタレ!」
恥ずかしげも無く言う久々知の頭を叩く。
ていうかよく照れも恥じらいも無く言えるな、いやそんなところも好きなんだけども。
「でも先輩が好きとか愛してるとか会う度に言ってきたら気持ち悪いですね」
「有り得ないが、真顔で言われるとさすがに傷つくぞ」
「いや、貶してるわけじゃなくて」
じとりと見ると久々知は慌てて手を振り、少しだけ考えてから照れたようにはにかんだ。
「言葉の重さを分かってるから軽々しく言わないって知ってますし。だから愛されてるなあって思うんです」
後輩としても恋人としても付き合いの長い奴だけれど、本当に人をよく見ているというか理解しているというか。
「先輩?」
「……ちょっと待て」
背を向けて、帳簿で顔を仰ぐ。
久々知はきっときょとんと首を傾げているんだろう。全く、鋭いのだか鈍いのだか分からない。
「……言葉にしなくたって、ちゃんと伝わってますから」
とん、と肩口に重みがかかる。
後ろから久々知が頭を乗せているのだと気付いて、ぽんぽんとその頭を撫でた。
「分かってる」
周りからどれだけ心配されても、それを笑い話に出来るほどには俺もこいつのことを理解しているつもりだ。
付き合いの長さは伊達じゃない。
「先輩は案外分かりやすいですよ」
「お前もな」
頭を上げてそう言う久々知に笑い返して、頬についた髪を親指で払う。
宝石のような漆黒の目が俺を捉えた。
「愛している」
「……俺も、」
愛しています。
言葉が音になる前に、唇でそれを塞いだ。
久々知を好いているか? 当然だろう。
気持ちの表現が下手? 言葉にしないだけだ。
嫌われる? 有り得ない。
泣かせたら貰う? 泣かせねえし絶対にやらねえよ。
うまくいく恋愛? 不必要だ。
俺達はそんなもんなくたってうまくいってんだよ、バカタレ共め。
――
なんてね!
文次郎が言葉を選ぶイメージは、実は落乱にハマりだした頃から定着してました。何故か。軽々しく言わないから、言う時はそれだけ気持ちを籠めて本気で言う。
仙蔵は逆に、からかって言うイメージで小平太とか留三郎は思ったら言う、みたいな。しょっちゅう思うのでしょっちゅう言う、というイメージ。
しかし六年×兵助増えないかなあ。支部だけじゃ足りない……。
あ、ちなみに五年生は兵助が幸せそうなので文次郎に小言言いに行きませんでした。兵助が泣いてたら闇討ちしに行きます。
ではでは、ここまで読んで頂きありがとうございました。