平和の象徴

*殺人描写





火薬委員会と言えば、地味、楽そう、何をしているのか分からない。
久々知先輩や池田先輩は尊敬してるけど、お豆腐パーティや親睦会なんてふざけてるとも思う。
毎日必死に帳簿と格闘しているぼくらの気も知らないで、予算だけは毎回高額で。
たった四人で、しかも六年生不在でやっていける委員会なら、いらないんじゃないかと。
ずっとそう思っていた。

「……火薬委員会って仲良しですね」

放課後、パチパチと算盤の音だけが響く部屋で神崎先輩がぽつりと漏らした。
顔を上げて視線の先を見れば、土井先生も含む火薬委員会が紅葉の下で焼き芋を食べている光景。
また遊んでいるのかと呆れるぼくの隣で、団蔵が羨ましそうに神崎先輩に同意する。

「昨日は団子食べに行ったらしいですよ」
「一昨日は勉強会をしていたぞ。久々知先輩の説明は分かりやすいから私もたまに混ぜてもらうんだ」

続く田村先輩の言葉に、神崎先輩と団蔵はいいなあと笑う。
暇そうな委員会の姿に眉を潜めた。

「遊んでばかりで、本当に楽な委員会なんですね」

帳簿から顔を上げずに言うと、田村先輩が苦笑する。

「火薬の管理は楽じゃないぞ。あの人達がしっかりしてるから楽そうだって思われがちだけど」
「四人でやれてるのって凄いことなんですよね。山田先生が仰ってました」
「確かに。タカ丸さんが来られるまでは三人だったしなあ」
「あ、そういえばそっか!」
「久々知先輩ももちろん凄いけど、下級生達も久々知先輩を支えようと頑張ってるからな」
「だから仲良しなんですねえ」

そしてまたわいわいと話し出す。
楽ではないと言うけれど、焼き芋を食べながら楽しそうにひっついている火薬委員会からは大変さなんて微塵も感じられない。
むっとしながら火薬委員会を見ていると、ずっと黙っていた潮江先輩ががしがしと頭をかきながら溜息をつく。

「左吉、火薬委員会は暇な方が良いんだ」
「……え?」
「あいつらはあれで良い」

それだけ言うと潮江先輩は黙り込んで、帳簿に視線を戻す。
それが合図のように、談笑していた田村先輩達もまた算盤を弾き出した。
会計室に静寂が戻る。


その意味が分かったのは数日後。
学園が襲われたのだ。

「先輩!」
「チッ……早く逃げろ!」

血と硝煙の臭いに包まれる学園。
叫ぶ下級生の声と、応戦する先輩方の闘う音。
ぼく達を庇いながら三人の曲者と闘う潮江先輩は傷だらけで。早く逃げないと、と思うのに団蔵と二人で竦んでしまっていた。神崎先輩がぼく達を背に庇ってくれて、田村先輩も潮江先輩を援護するように苦無を持って立っている。

「潮江先輩!」

聞いたこともない田村先輩の張り裂けそうな叫び声に目を見開く。
袋槍と苦無で敵の刀を抑え込んでいるその隙を狙って、もう一人の男が潮江先輩に苦無を突き立てようとしていた。

「「先輩!!」」

先輩がやられる。
必死で手を伸ばした時、乾いた音が響き渡った。

「っ……!」

男が崩れ落ちる。
驚いて辺りを見回す曲者の背後に、黒い影が音もなく下りてきて躊躇いもなく曲者の首に何かを突き立てた。
寸鉄だ。
理解すると同時に、黒い影の顔がはっきり見えた。

「久々知先輩……」

あれだけ馬鹿にしていた委員会の委員長代理に助けられたのだ。
久々知先輩はいつもの無表情よりももっと冷たい目をしていて、そのまま田村先輩に担いでいた火縄銃を投げつけた。

「鐘楼に行ってくれ。薬込み役はタカ丸にやらせる」
「っ、分かりました」
「……すまん、久々知」
「いえ。左門、団蔵と左吉を連れて学級室へ」
「はい!」

神崎先輩がぼく達を引っ張って走り出す。
久々知先輩は神崎先輩の返事を聞いて、ようやくいつものように優しく微笑んだ。

学級室には三年以下の下級生と、先生方が何人か集まっていた。
ざわめく同級生達の言葉を聞いているとどの委員会も火薬委員会のメンバーに助けられたらしい。
説明は誰もしてくれなかったけど、潮江先輩が言っていたことが分かった気がした。








怪我人はたくさん出たし、壊れた物もたくさんあるけれど、誰も死ぬことなく事件は終結した。
怪我は治るし、壊れた物も直る。何一つ欠けたものは無いのだと、潮江先輩と田村先輩は笑っていた。

「あ、火薬委員会だ」

今日もぼくらは必死に帳簿をつけている。
ぽつりと漏らされた神崎先輩の言葉に、帳簿から顔を上げた。

「楽しそー」
「仲良しだなあ」

火薬委員会は雪の積もった庭で雪だるまを作っている。階段のように小さいものから大きいものを五つ並べて、きゃあきゃあと笑い合って。
そんな光景を、他の委員会も微笑ましそうに眺めていることに気が付いた。

「仲良し、ですね」

くすっと笑ってそう言うと、黙っていた潮江先輩がにやりと笑った。

「うちも混ざるか」
「え!?」
「「やったあ!」」

はしゃいで外に走り出る団蔵と神崎先輩。他の委員会も同じ考えだったようで、楽しげな声はどんどん増えていく。

「分かっただろ? 火薬委員会はあれで良いんだ」

戸惑って立ち尽くすぼくに潮江先輩が庭を見つめたままそう囁く。
満足そうに笑う先輩に、ぼくは笑顔で頷いた。











――
地味で暇な火薬委員会は、有事の際一番忙しいはず。焔硝蔵はそう簡単に見つからないところにあるので、見つかる前に各陣営に行って補佐をする。裏方とかサポート、守ることが仕事。
タイトルは、普段の仲良し委員会が他の委員会からそう思われてたらいいなーっていう。あと、迷子は冷静になれば迷子にならないと思うんだ。はい、妄想です。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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