一番美味しい食べ方







教室の掃除をしていた時、窓から見える裏庭にたくさん落ち葉があることに気付いた。
みんなで焼き芋でもしよう、と掃除を終えてから落ち葉を集めて中庭に行くと。

「あれ?」
「あ?」
「お?」
「ん?」
「え?」

同じように集めた落ち葉を持っている友人達の姿。勘右衛門と三郎は芋まで持ってきている。しかもそれぞれ別々の方向から来ていて、みんなバラバラの場所で同じことを考えていたのかと笑い合った。

「芋多くない?」
「いーのいーの」
「落ち葉もすんごい量になっちゃったね」
「うーん、ちょっとこの辺わけて、これそっち置いといて」
「こっち燃え移らない?」
「すぐにそれも燃やすから大丈夫。あ、八左ヱ門念のため水くんできて」
「りょーかい」

勘右衛門と三郎が芋の準備をしている間に兵助が俺と雷蔵にテキパキと指示を出す。
火の扱いは火薬委員会が一番。勿論異論なんて無く、素直に井戸に向かう。

「お?」

井戸で水を汲むと、背後によく知る気配。
振り返ればそこには孫兵、作兵衛、左門、三之助、藤内、数馬がいた。
うん、いいこと思いついた!

「そこの三年生!」
「竹谷先輩?」
「「こんにちはー!」」
「こんにちは。お前達今暇か?」
「え?」
「暇ですけど……」
「これから俺達焼き芋するんだけど、一緒にどうだ?」

きょとんと首を傾げる様子に笑いながらそう言うと、素直に食べたい! と言ったのは迷子コンビだけだった。他の三年生達は遠慮かはしゃぐことへの気恥ずかしさか、どうしようかと目を合わせている。
だけど、みんな一瞬目を輝かせたことに気づいていないわけがない。

「結構芋貰っちゃってさあ、食ってくれると助かるんだけど」

そう言えば、みんな素直に頷いた。
勘右衛門と三郎が大量に持ってきてたし、三年生くらい大丈夫だろう。
もし自分達の分が無くなっても、後輩がいればテンションが上がるだろうから問題ない。

「もう始めてんじゃん!」
「八左ヱ門遅いよー!」
「ごめんごめん、客つれてきた」
「客? あ、三年生連れてきたの?」
「「なにっ!?」」

中庭へ行けばもう火を調節している兵助と三人。勘右衛門には文句を言われたけど、予想通り三年生を見ると嬉しそうに近寄ってきた。

「よくやった八左ヱ門! よく来た三年生!」
「「こ、こんにちは……」」
「勘右衛門、テンション上がり過ぎ。三年生引いてんじゃねーか」
「んだよー、三郎だってテンション高いじゃん!」
「はいはいそこまで。もうちょっとで焼けるからちょっと待っててね」
「「はい!」」
「うん、素直でよろしい」
「ちょっとー、俺寂しいんですけどー」

三年生と五年生四人で騒いでいると、後ろ、一人で焼き芋を焼いている兵助が拗ねたように声をかけてくる。
でも火からは一瞬も目を離さない。

「あっは、拗ねんなよ兵助え!」
「そんなに寂しいなら構ってやるー!」
「構ってやるー!」
「うっわやめろお前らは来んな! 俺は三年生と絡みたいの!」
「あははは!」
「久々知先輩ってあんなこと言うんだねえ」
「うん、いつも冷静なイメージだったから意外」
「不破先輩も意外と悪ノリするタイプなんだな」
「ていうか、竹谷先輩があんなに爆笑するの初めて見た」

後ろから三年生のそんな言葉が聞こえてくる。確かに兵助も雷蔵も、冷静で温厚な先輩で通ってるもんなあ。
そんな三年生に笑いかけて、一緒に兵助の近くまで向かった。

「お前達、兵助の焼き芋めちゃくちゃ美味いから楽しみにしてろよ!」
「てめ八左ヱ門ハードル上げんな!」
「久々知先輩の焼き芋そんなに美味しいんですか!?」
「楽しみです!」
「う……!」

純粋な笑顔を向けられてたじろぐ兵助に俺達は笑う。こんなこと言われちゃ美味しい焼き芋を作んないとな、なんて茶化ながら俺達の空気に緊張が解れてきたらしい三年生とも笑い合った。

「出来たぞー」
「「よっしゃあ!」」
「はいはい三年生からな。熱いから気をつけろよー」
「「ありがとうございます!」」

ざくざくと落ち葉を火箸で掻き分け、兵助が焼き芋を取り出す。
熱い熱いと言いながらぱかりと芋を割った途端、漂ってきた良い香りに三年生が歓声を上げた。

「わあ、 ほっくほく!」
「めちゃくちゃ美味いです!」
「お、良かったー」

三年生達の感想に嬉しそうに微笑みながら、兵助は俺達に目配せをする。
俺達も頷きで返し、さっきからずっとこっちを見ている井桁模様を迎えに行った。

「一年い組みっけー!」
「「お、尾浜先輩!?」」
「ろ組もこっちおいでー」
「「は、鉢屋先輩……!」」
「は組も素直に来れば良いのにー」
「ほら、焼き芋食べたいんだろ?」
「「不破先輩、竹谷先輩!」」

総勢十九人。多いなーと笑いながら兵助の元へ戻ると、気付いていなかったのか三年生は驚いていた。

「「久々知先輩、三年生の先輩方、こんにちはー!」」
「こんにちはー」
「兵助ー、焼き芋足る?」
「ん、三郎と勘右衛門がたくさん持ってきてくれたから大丈夫だよ」
「よーし、じゃあ焼き芋食べたい人はせいれーつ!」
「「はーい!」」

三郎の言葉に元気よく挙手して全員が兵助の前に並び、兵助が笑いながら焼き芋を渡して行く。
焼き芋を貰った子供達から、次々おいしーい! という声が上がった。

「あまーい!」
「お芋ってこんなに甘くなるんだねえ!」
「久々知先輩すごーい!」
「あはは、ありがとう」

きゃっきゃと一年生達に褒められ、兵助は嬉しそうだ。
そんな微笑ましい光景を眺めていると、匂いにつられたのか喧騒を聞きつけたのか気配が増えた。

「お前達の分もあるぞー」
「竹谷先輩……!」
「べ、別に食べたいわけじゃ」
「はい聞こえなーい強制でーす」
「ぎゃ! ふ、不破先輩!」
「お前達、たまには素直になれよ。四郎兵衛のように」
「久々知先輩、ぼくも欲しいです」
「「四郎兵衛っ!?」」
「あはは! ちゃんとみんなの分あるからこっちおいで!」

兵助が楽しそうにそう言いながら四郎兵衛に焼き芋を渡す。
先輩だからか、珍しく最初に三郎次から焼き芋を貰いに行く。

「せ、先輩の指示だからですよ!」
「うん、ありがとう。はいどうぞ」
「…………ありがとうございます」

言い訳はするけどお礼はちゃんと言うのか。
二年生可愛いな! と雷蔵に笑いながら言うと、でしょうと嬉しそうに微笑まれる。
聞こえていたらしく二年生に怒られた。

「……お、さすがに四年生は気配消してくるか」
「でも、まだまだだねえ」

三郎の楽しげな声に、勘右衛門が楽しげに返す。
兵助を見ると、ぐっと親指を立ててきた。さすが兵助、みんなの考えていることもお見通しか。
親指を立て返して、俺は息を吸い込む。

「よっしゃ四年生確保ー!!」
「「おおー!」」「「ぎゃあああ!!」」

即座に三郎が滝夜叉丸、勘右衛門が三木ヱ門、雷蔵が守一郎を捕まえる。
喜八郎とタカ丸さんは素直なので捕まえなくても良い。守一郎はノリだ。

「兵助くーん、おれらも貰っていいの?」
「……いいけどさ、普通さ、年上って最後じゃない?」
「えー、でも後輩でしょ?」
「こういう時だけ後輩ぶるよなお前。はい喜八郎、滝夜叉丸、三木ヱ門、守一郎」
「ちょっ!」
「ありがとうございまーす」
「わー、ありがとうございます!」
「「あ、ありがとうございます」」
「ごめん兵助くん! 焼き芋ください!」
「はいはい」

兵助がタカ丸さんに辛辣なのはいつものことで、最初に聞いた時こそタカ丸さんを心配したけど今は信頼関係ありきのことだと知っているので微笑ましく見守る。

気付けば食べ終わった三年生も一年生や二年生と談笑していて、委員会の枠を超えて珍しい組み合わせで話している後輩達もいる。
楽しそうで何よりだ、とみんなで笑い合う。そして俺達も食うかと兵助が焼き芋を取り出した時、背後に気配が六つ。

「楽しそうなことをしているな」

空気が凍った。
いや、正確に言うと凍ったのは俺を含む五年生の背筋であって、後輩達は「あ、せんぱーい!」と楽しそうに笑っている。

「せ、先輩方……」
「久々知、俺達も貰いたいのだが」
「……勿論ありますよ」

苦笑する兵助が、俺達に「ごめんお前らの無くなった」と矢羽音を飛ばしてきた。
うん、仕方ないな。先輩だもの。

「さ、お前達、そろそろ夕飯の時間だろう?」
「もう戻った方がいいんじゃねえか?」
「あ、ほんとだあ」
「じゃあ帰ろうかー」
「そうだね」
「「久々知先輩、お芋美味しかったです! 五年生の先輩方、ありがとうございましたー!」」
「「う、うん……!」」

善法寺先輩と食満先輩に促された後輩達がにこやかに帰っていく。
俺達、というか特に兵助に対しての六年生の視線が痛い。怖い。

「あ……片付けしないと」
「マイペースだな!」

兵助は六年生を気にしていないようだった。

「ああ、僕も手伝うよ」
「おれもー!」
「私もー」
「お前らもマイペースな!」
「あ? 八左ヱ門も手伝えよ」
「手伝うけども!」

兵助のペースに乗せられ、六年生を放置してさくさくと片付けを手伝う。
六年生が声をかけようとしているのが見えたが、その前に兵助からの指示が飛んできてそれどころじゃなかった。

「終わったー」
「お疲れー」
「結局焼き芋屋さんごっこしただけだったねー」
「まあ、後輩が喜んでたから良いじゃないか」
「だな。先輩方も喜んでくれて……って先輩方まだいたんですか!?」
「「わざとらしいわ!」」

ずっと芋を持って待っていたらしい先輩方に勘右衛門が驚いた振りをすると、全員からツッコミが入る。

「まだなんか用ですか? 兵助の美味しい焼き芋はあげたでしょー」
「お前の言い方ほんとムカつくな」
「兵助腹減った」
「高野豆腐いる?」
「いらね」
「じゃあ食べる」
「お前らはマイペースだな……」
「……雷蔵」
「はい?」

いやみんなマイペースですよとは言えず黙っていると、中在家先輩が雷蔵を手招く。
雷蔵が近寄ると、先輩は焼き芋をぱかりと半分に割って雷蔵に渡した。

「お前達の分は無いようだから……」
「せ、先輩……! ありがとうございます!」
「中在家先輩かっこい!?」
「良かったなぁ雷蔵!」
「え、でも僕だけ食べるのも……」
「いいっていいって。折角先輩に貰ったんだから頂きなよ」
「そうそう!」
「八左ヱ門!」

俺達に遠慮してなかなか食べない雷蔵に笑いかけると、七松先輩がひょこっと中在家先輩の後ろから出てきて俺に半分の焼き芋を渡してくる。

「お前には私のをやろう!」
「え、あ、ありがとうございます!」
「か、勘右衛門!」
「わー! ありがとうございます!」
「兵助、これ食え」
「……ありがとうございます」
「三郎にはこれをやろう」
「…………どうも」

七松先輩に続くように、食満先輩が勘右衛門、潮江先輩が兵助、立花先輩が三郎に半分の焼き芋を渡す。
余った善法寺先輩は一瞬凍りついて、少し考えてから兵助に声をかけた。

「兵助、ずっと君が作ってたんだろ? 食べなよ」
「え?」
「おー、兵助貰っちゃえよ」
「そうだな、お前いつもあんまり食わないし」
「うん、そうしなよ兵助」
「おれも異論なーし!」

俺達の言葉を聞いて、兵助は少し黙り込むと焼き芋を受け取らずにそのままかぶりつく。

「わ、兵助!?」
「どうしたの!?」
「そんなに伊作が嫌なのか!?」
「泣くよ留三郎!」

珍しい行動に驚いていると、兵助はぺろりと唇を舐めて無表情のまま小首を傾げた。

「……みんなで分けて食べた方が美味しいと思ったから」

感極まったのは俺達で、無言で俯いたのは六年生だ。

「兵助ぇ! 大好き!」
「むしろ愛してる!」
「この子ってばもう! 大好き!」
「お前ほんと……好きだ!」
「おお、俺もお前達大好きだぞ」
「「きゃー! 兵助マジ男前!」」

天然恐るべし。
みんなで兵助に抱きついて騒ぐ。

「あいつら……本当に一個下か?」
「もう……もう……!」
「五年生って……天使だっけ……」
「もはや天使だよ……!」
「私今顔あげられない……!」
「みんな同じだ……!」

六年生がそんなことを言っているなんて知る由もなく。

その後、散々騒いでからみんなで一口ずつ焼き芋を食べた。
会話も弾み、六年生との距離もなんだか縮まったような気がする。
自分達だけでする予定の焼き芋だったけど、確かに兵助の言う通りみんなで分けて食べるのが一番美味いな、なんて。










――
楽しいことは全学年で分け合う五年。
ていうかこれ全学年って言っていいのかなあ……名前もろくに出てない子が……。

まあ!細かいことはいけどん!ということで!
五年生が全学年を巻き込んで楽しいことをする話が書きたかっただけです!

ここまで読んで頂きありがとうございました!

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