長期休み恒例イタズラ学年!

*キャラ崩壊





木枯らし吹き荒ぶ秋の終わり。
秋休み中で今はいない騒がしい子供たちも、明日には帰ってくるだろう。
教師と五、六年生しかいない学園はとても平和で静かだ。

「五年貴様らああああ!!」

……平和で静か、だった。








学園の各所から次々に聞こえてくるのはどれも、六年生の怒号。
教師達は慣れたようにそろそろやると思ってたよと茶を啜り、事務員はまたいつものか、と苦笑を零す。

どたばたと走り回るいくつもの足音と、楽しそうな叫び声が響く。
木下がひょこりと職員室から顔を出すと、丁度兵助と三郎が走ってきた。
二人は実に良い表情で木下に挨拶する。木下は苦笑しながら返し、愉快げに尋ねた。

「お前達、今度は何したんだ?」
「私は立花先輩の部屋にあった焙烙火矢に全部しんべヱと喜三太の絵を描いて、」
「俺は潮江先輩の帳簿にパラパラ漫画書きました!」
「協力しましたー!」

いえーい! と手を合わせる成績ツートップに木下は「才能の無駄遣いするな!」と叱る……わけもなく、「暇だなあお前達」と爆笑した。六年生にバレずにそこまでやるのはむしろ褒めて然るべきだろう、というのが忍術学園だ。
木下の爆笑を聞きつけたのか、遠くから五年生に負けない足音が聞こえてくる。

「来たな」
「だな」
「「じゃあ先生、失礼しまーす!」」
「頑張れよ」

顔を見合わせて一瞬で五年生が消えると、タイミング良く二人が悪戯をした六年生達が現れた。

「あっもういねえ!」
「くっそどこ行ったあいつら!」
「木下先生、あいつらどこ行きました!?」
「さあな。儂にも分からん」
「あいつらこういう時だけ無駄に才能使いやがって!」
「とりあえず手当たりしだい探すぞ!」
「おう!」

どたばたと走って行く六年生の背に「ほどほどにな」と声をかけて、木下は楽しげにくつくつと笑った。




同刻、学園長が庵で茶を啜っていると、庭に騒がしい藍色の固まりがやってきた。
失礼しまーす! と元気よく入ってきた三人は、学園長にぺこりと一礼してきゃっきゃと笑い合っている。

「お前達、今度は何したんじゃ?」

木下と同じように面白そうに笑いながら学園長は尋ねた。
三人はにんまりと笑って答える。

「僕と八左ヱ門は七松先輩と中在家先輩の部屋に虫の玩具を投げ入れて!」
「おれは医務室に、トイレットペーパーを『アホのは(笑)』って並べて置いときました!」
「勘右衛門のは五人全員で協力したんですよー!」

ねー、と仲良く顔を見合わせる三人に、学園長もまた叱ることはせず大笑い。
仕掛けられる六年生からしてみればたまったもんじゃ無いかもしれないが、教師達からしてみれば五年生の悪戯は最早恒例行事だ。

「兵助と三郎はどうした?」
「さっき木下先生の部屋から先輩方の声が聞こえたので、あのへんだと思います」
「俺達もそろそろ合流しねえと」
「だね。それでは学園長先生」
「「失礼しまーす!」」

元気よく走り去った五年生を見送ると、三人を探している六年生がどたばたとやってきた。

「学園長先生!」
「あいつらどこ行きました!?」
「さあのう。じゃが、そろそろ合流すると言っておったぞ」
「五人が揃うとしたら……」
「食堂か八左ヱ門の部屋だね!」

学園長の言葉に答えを導き出し、六年生も一礼して去って行く。
そんな六年生を見ながら、学園長は優しく微笑む。

四年前の、楽しそうに逃げ回る井桁模様の子供たちを怒鳴りながら追いかける青色の子供たちとなんら変わらない。
藍色と柳緑になろうが、生徒は可愛いものだ。





伊作の読み通り、五年生は食堂に集合していた。

「「兵助! 三郎!」」
「「雷蔵! 勘右衛門! 八左ヱ門!」」

二手に分かれていた五年生はそれぞれの名前を呼んで状況を確認する。

「首尾は?」
「勿論上々! そっちは?」
「当然!」
「そろそろ先輩方も揃った頃かな?」
「恐らく」
「よし、それじゃあ仕上げといくか!」
「「おう!」」

三郎の言葉に五年生は頷き、手を叩き合った。

「何する気だお前ら!」
「「ぎゃあ!!」」

しかし、動き始める前に留三郎の一喝と、それぞれの頭に一発ずつ拳が落とされた。
五年生が振り返ると、良い笑顔の六年生が揃っている。
やはり六年生の方が上手だったようだ。

「早くね!?」「学園長先生かも」「あちゃー、言わん方が良かったか」「それよりどうする?」「逃げたい」さあっと青ざめながらひゅんひゅんと矢羽音を飛ばす五年生達に、文次郎が滅多に見せない笑顔を見せた。同時に音もぴたりと止まる。

「さて……覚悟は出来てんだろうな?」
「「すみませんでした!」」
「早! お前ら相変わらず謝るの早いな!?」
「お前ら土下座すれば良いと思ってないか?」
「いやあそんなことは」
「滅相も無いですよ」

仁王立ちする六年生の前に正座する五年生。叱りつけつつも、六年生は「反省はしないんだろうなあ」と半ば諦めているし、五年生も勿論反省はしていない。むしろ三郎や勘右衛門などは次回の悪戯を考えている始末だ。

「ほんと、毎度毎度懲りないね君たち」
「やだなあ先輩方、おれ達は先輩方の息抜きのために」
「息抜きで怒らせてちゃわけねえよな? ん?」
「「いだだだ!」」

いけしゃあしゃあと六年生のためという勘右衛門に、隣に座る兵助諸共留三郎が拳をぐりぐりと動かす。

とは言いつつ、本当に息抜きになっているのも嘘ではない。
最上級生として、卒業を間近に控えた者として、ずっと気を張っている六年生。ずっと一緒に過ごしてきた五年生はそれに気付いているのだろう。
だからこそ、下級生が帰ってくるぎりぎりに毎回悪戯を仕掛けるのだ。溜め込んだ器を空にして、下級生が帰ってきてからまた溜め込んでも大丈夫なように。

勿論、本当の目的は息抜きではなくきっと自分達の腕試しだろうが。
五年生が一年生だった頃から、六年生は悪戯を仕掛けられている。後輩が出来てからは無くなったが、それぞれが進級して長期休みに残るようになるとまた始めだしたのだ。
一年生の頃と比べれば五年生の悪戯の腕は随分と上達した。変装や気配を消すことが完璧になっているので、六年生もなかなか気付くことが出来ない。まああくまでも内容はしょうもないが。
本来の目的が腕試しと分かっているから、六年生は遠慮なく五年生を叱り飛ばす。

「ところでお前達、最後に何しようとした?」
「あ、そういえば仕上げって言ってたよね」
「忘れていたな」

ふと思い出したという六年生の言葉に、五年生は揃って顔を見合わせた。その幼くも見える無邪気な笑顔に、六年生はそれとなく周りを警戒する。
そんな六年生を気にすることなく、五年生は楽しそうな笑みを崩さない。

「今日が秋休み最後の久々知食堂でしょう?」
「どうせならご馳走を作ろうって話になりまして!」
「五年生全員で兵助を手伝ったんですよ」
「本当は先輩方が来る前に準備したかったんですけどねえ」
「ま、悪戯というよりサプライズですが」

言いながら、五年生達はどんどん料理を並べていく。
長期休み中、厨房を一任されている兵助は、六年生の胃袋をがっちり掴んでいる。食堂の机いっぱいに並べられた料理を見て、六年生は顔を見合わせて苦笑を零した。

本当に、五年生だけを相手にすると調子が狂う。
さっきまでの喧騒はどこへやら。
食堂から聞こえてくる楽しげな笑い声に、教師達は顔を見合わせて笑い合った。

時刻は夕刻。さて、私達も久々知食堂にお邪魔しようか。








――
悪戯は「面白いイタズラ」でググったものを参考にさせて頂きました。やりすぎはアレですが、面白い悪戯思いつく人って凄いですよね。そういう馬鹿なことに全力をかけられる人って好きです。
五年生は馬鹿なことを全力でやってくれると信じてます。そして無駄にハイクオリティ。

ちなみに兵助が書いたパラパラ漫画には十中八九豆腐が描かれています。三郎はまた豆腐かーって何気なく見てみて爆笑か感動すれば良い。あと三郎が書いたしんべヱと喜三太は全部表情が違います。凝り性な天才秀才。六ろに投げた虫の玩具はハチがわざわざこのために作りました。雷蔵が同じ悪戯なのは、やっぱり迷ったから。二人は割と大雑把なので突撃系の悪戯が多いです。勘右衛門は最初「不運(笑)」と「九年目乙」と並べようとしましたが止められました。留三郎を敵視する勘右衛門。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました!

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -