月に望む

*死を仄めかす描写有
*年齢操作






大きな満月が揺れる黒髪を照らしている。
数年振りに会った後輩は忍としてとても成長していて、貼り付けたような無表情からは何の感情も読み取れない。

「髪、切ったんだな」

笑いながら昔よりも短くなった黒髪に目を留めると、後輩は無表情のまま、しかし目元を少しだけ緩めた。

「先輩は伸びましたね」

あの頃と変わらない、柔らかい声だった。



******


もう何年前か忘れてしまったけれど、俺達がまだ「先輩」と「後輩」という関係だった頃の話。

俺と久々知は互いに好き合っていた。
けれどその想いは互いに口にすることなく、バレていただろうが周囲からどうこう言われることもなく。
気持ちを伝える気は、きっとお互いに無かった。

学園長先生のいつもの思いつきで行われたお月見大会。大会と言っても全校生徒でお月見をするだけだったが、普段は忌々しいだけの満月もこの日ばかりは綺麗だ綺麗だとみんなで笑って。
はしゃぐ下級生を見守りながら、おばちゃんが作ってくれた月見団子をつまんで。

お月見大会が終わって下級生が眠った後、今度は五年生と六年生だけで酒宴をした。
それほど、あの日の月は綺麗だった。

月には人を惑わす力があるらしい。
なれば、惑わされたのは俺か久々知か。

「久々知……月が、綺麗だな」

酒が回って騒ぐ友人達には聞こえない声で。
久々知は一瞬だけ目を見開いて、俯いた。

「…………」

結局あいつは何も答えず、けれどずっと俺の隣に座っていた。

それだけで充分だった。



******


血と硝煙の臭いが鼻をつく。
煌々と輝く満月が血に濡れた俺を照らす。
久々知がはっきりと表情を歪ませたのは、あの一度きりだけだ。

最期まであいつは忍だった。
実力もあの頃とは比べ物にならないくらい、ずっと強くなっていた。
やられた肩の傷はかなり深い。早く手当てしなければ俺もここで朽ちるだろう。

血の臭いを漂わせながら、俺はその場から離れた。
視界が滲むのを、硝煙のせいにして。


『月が、綺麗だなあ、兵助』

『……留三郎先輩、……俺、死んでも良いですよ』


満月は、ずっと変わらず輝いている。










――
書きたかった月が綺麗ですねネタ。
本当この日本人独特の表現が好きです。時代が違うとかキニシナイ。
こう……胸に来る感じのものを書きたかったのだけど私の文才じゃあ無理ですね小説ってムズカシイ。
こういう日本独特の美徳は、いつまでも無くならないで欲しいと思います。これでも日本語大好きです。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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