知らぬ所で







用具委員会の仕事が出来たので守一郎を呼びに四年長屋へ行くと、何故か廊下で五年生がだらけていた。
あれ間違えたっけ? と一瞬思うも、やっぱりここは四年長屋で。

「……お前ら何してんだ?」
「あ、食満先輩」




知らぬところで




守一郎の部屋を覗くと、四年五人どころか火薬委員会も揃っていた。
話の内容からして久々知が勉強を教えているようだ。

「たまに開かれるんですよ。久々知教室」
「久々知教室?」
「喜八郎命名です」

へえ、と久々知の説明を真剣に聞いている四年生達を見る。五年生と四年生は関わらないので仲が悪いと勝手に思っていたが、全然そんなことは無かったらしい。

「となるから、守一郎、ここで気をつけることは?」
「えーと……」
「そうだな、見た目や声は完璧に変装出来ていると仮定しよう」
「……あ、臭いですか?」
「正解だ。特に、戦慣れしている城なら火薬の臭いには敏感な者が多い。見た目は誤魔化せても、臭いは誤魔化せないからな」
「なるほどねえ」
「でも、それは逆に臭いを付けておいた方が良いということにもなりますよね?」
「さすが三木ヱ門だな。その通り、兵士や足軽からは火薬の臭いがする。変装を使って潜入するならその人物の見た目や声だけでなく、周りの環境も見ておくべきということだ」

なるほど分かりやすい。思わず聞いていると、後ろで五年生がくすくす笑っていた。

「あれ、私が昔教えた奴だな」
「でも三郎はあれだよね、変装は臭いが重要だ、としか言わなくてさ」
「あー、それ俺わけわかんなかったんだ」
「三郎は感覚派だから説明下手なんだよねー」

五年生は良い関係なんだなあと思う。六年生で勉強教え合うとか、伊作だけならともかく全員だと戦闘になる気しかしない。
まあ間違いなく俺も戦うんだけども。

「と、なる。……食満先輩、守一郎ですか?」
「「え!?」」
「ん、おお」

やはりというか、久々知は気付いていたらしい。全部説明し終えるまで無視するあたり、肝が座っているというかなんというか。
久々知の言葉に四年生は漸く俺に気付いたようで、勢い良く振り返る。俺を見留めた守一郎が慌ただしく片付け始めた。

「あー守一郎、ゆっくりで良いぞ」
「あっ、はいっ!」
「よし、じゃあ切りも良いし勉強会も終わるか」
「「はーい」」
「久々知先輩、ありがとうございました!」
「うん、またいつでもおいで」

後輩同士でこうやって交流しているのは見ていて微笑ましいが、どこかしら少し嫉妬心があるのも事実だ。
俺の後輩なのに。……まあ、久々知が先に声かけたんだけど。
俺六年生なのに。……まあ、久々知ほど説明分かりやすくできないけど。
あれ、俺負けてね?

「久々知、ありがとな」
「いえ。あ、そうそう食満先輩」

せめて余裕ぶりたい。と礼を言うと、久々知はにこりと微笑んで小首を傾げる。

「守一郎が委員会の仕事をもっと教わりたいそうですよ」

思わず笑顔のまま固まった。

「のわああっ! く、くく久々知先輩!」
「ん? くが多いぞ守一郎」
「そういう問題でなくて!」
「守一郎、久々知先輩のこれは恒例行事だ」
「私達も通ってきた道だ」
「諦めよう」
「でええ!?」

騒いでいる四年を背に、久々知は五年生と火薬委員を連れて去って行く。なるほど、進級したての頃仙蔵と小平太と文次郎がやけにテンション高い日があったのはそういうことだったか。
確かにこれはテンションが上がっても仕方ないな。

「よし分かった守一郎! じゃあ下級生には任せられない仕事も教えてやろう!」
「食満先輩……は、はい!」

後輩が仕事を頑張りたいと言ってくれるほど、嬉しいことはない。
久々知に燃やしていた妙な対抗心はどこへやら、俺は今日一日テンションが高かった。










――
火薬委員は暇だから、って理由で兵助がいろんな人から相談受けてたら面白いなー、火薬委員の勉強見てたら四年生と五年生もわらわらやってきたら面白いなーって思いまして。
四年生と五年生って実際仲はどうなんでしょうね? 喜八郎は舌打ちとかしてるので認めてるけど気に入らない的な感じでしょうか。三木ヱ門は……三木ヱ門と兵助って仲いいのかな。
まあそんなことは置いといて。
兵助が説明してることはほぼ十割嘘っぱちです。鵜呑みにしないでくださいね。

ここまで読んで頂きありがとうございました。



修正 15.10.23


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