梅の花の下で




庭の紅葉もすっかり枯れ落ち、学園周りの木々も寒そうに見える冬の始まり。
町へ買い物に出た帰り道で、梅の木を前に悩んでいる後輩を見つけた。
ここは毎年梅並木になる場所で、町の人達に混じって学園の生徒も花見に来る有名な絶景場所だった。

「久々知?」
「食満先輩。こんにちは」
「おう」

振り返った久々知は淡く微笑む。同級生や目上にだけ見せる冷静な微笑。
豆腐を前にした満面の笑みも好きだが、俺はこの微笑も割と好きだった。

「何してるんですか?」
「買い物帰り。お前こそ梅の前で何悩んでたんだ?」

買った物を軽く掲げて見せ、首を傾げる。見られてましたか、と淡い笑みのまま、久々知はその笑みを深くした。

「梅の剪定ですよ。どこから斬ろうかと思って」

よくよく見てみれば、久々知が悩んでいた梅の周りの木はほとんど剪定が済んでいて。
毎年綺麗な梅の花を咲かせるのはこいつのお陰だったのか、と思った。

「へえ、こういうのって八左ヱ門とか伊作の仕事だと思ってた」
「まあ半分趣味みたいなものですよ。家が山守の一族だったんです」

久々知が自分の家のことを話すのは珍しい。
自分には話しても良いと判断されたことの嬉しさと、過去形についての疑問が同時に浮かんで曖昧に返す。
きょとんと小首を傾げた久々知はどこか幼くて、思わずぽん、と頭を撫でた。

「……なんですか」
「……えーと、いつもありがとう、的な?」
「……ん?」
「や、ほら、ここでの花見は毎年後輩達も楽しみにしてるし」

意味の無い行動に理由を求められても困る。適当に理由付けした自分が悪いのだが。
わたわたと言い訳じみたことを話す俺に久々知は噴き出した。

「ぷっ、どうしたんですか、珍しい」
「いや……うん、なんでもねえよ」

それがなんだかとても恥ずかしいことに思えて、もう一度久々知の頭をぽんと撫でてから手を離す。

「……剪定、まだかかるのか?」
「え? ああ、もう少しで終わりますよ」
「待っとくから、よ。一緒に帰ろう」

頬をかきながらそう言うと、久々知は数回ぱちぱちと瞬きしてから、ふわりと笑ってはい、と頷いた。
その笑顔から、全身から、「嬉しい」と伝えてくる久々知が可愛いのだけど恥ずかしくて。きっと今の俺は、久々知に負けないくらい赤い顔をしているのだろう、と。

「敵わねえなぁ……」

口角が上がる口元を手で覆った。

「珍しいですね、食満先輩が一緒に帰ろうだなんて」
「たまにはな。学園だと誰が見てるか分からねえし」
「まあそうですが。嬉しいです」

帰り道、態度だけでなく言葉でも素直に伝えてくるこの恋人は全く。

「本当俺、お前のそういうとこ怖いわ」
「?」
「まあ、そこが好きなんだけどよ」

顔を真っ赤に染めながらもはにかむ久々知に、きっと勝てることはないんだろうと思いながら唇を落とす。

来年もまた、綺麗な梅の花を一緒に見られますようにと願いを込めて。










――
甘いはず。当社比ではだいぶ甘いはず。
綺麗な表現をしてみたくて、メインを食満くくではなく梅の花にしてみた。まあ私の文才じゃあこれが限界だよね。いいんだ満足。
兵助の山守設定を書いてみたかったんです。久々知は「久久能智神」からきているという説や、尼崎の久々知にあるらしい「久々智一族資料館」?みたいなやつの「久々智一族」が山守の一族だったと聞いて滾った。久々智一族曖昧だけど。
山守設定を書きたい書きたいと思って木を調べてたら、実梅の木は冬に剪定するとちらっと読んで勢いで書いてしまいました。その割に全然剪定してないけどまあいいや。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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