可愛いけど可愛くない

*捏造過多




忍術学園はその名前だけで脅威になる。
そこを卒業した忍びは総じて優秀な者が多く、また、まだ卵なのにも関わらず名前を馳せている生徒もいる。
なれば、脅威は早々に潰すべし。
そう考える忍び衆は多い。

「敵襲か?」
「そのようだ」
「下級生がいなくて良かったな」
「……だが五年も何人かは帰郷している」
「それはちょっときついね」
「残ってるのは……」

ざわめく空に、六年生が口々に話す。
余裕があるのは最上級生故の貫禄か、それとも。
考えようとした留三郎の言葉が止まる。六人の前に音も気配も無く現れたのは、無表情の青藍だった。
青藍は文次郎を目に止めると、片膝をついて淡々と告げる。

「五年生のうち、残っているのは竹谷と私だけです。敵はカキシメジ城の忍び衆。東と北へ小部隊で移動中とのこと」
「戦力は?」
「……綾部の罠で三分の一が絶命」
「…………」
「……竹谷の烏が旋回しているはずです」
「分かった」
「では、私も引き続き偵察にあたります」

そしてまた音も無く消えた気配に、文次郎以外の六年生は感嘆を漏らす。

「久々知の奴、完璧に気配を消していたな」
「八左ヱ門の獣遁も凄いが……」
「ああ、この短時間であれだけ調べ上げた八左ヱ門も凄い」
「でも、この短時間でその情報を纏めて簡潔に伝えた久々知も凄い……」
「文次郎が一目置いてるわけだね」

学園一忍者していると言われる文次郎が、珍しく認めている後輩。文次郎が陽忍としての意味で「一番忍者してる」と言われているなら、彼は隠忍としての意味で「一番忍者してる」のだろう。
「地味学年」の「地味委員会」は伊達ではない。

「で、どうするよ文次郎?」
「どうもこうもねえ、いつも通りだ。――学園には指一本触れさせるな」

底冷えする声に、六年生はにたりと笑った。
五年生を上回る己の実力、とくと見せつけてやろうではないか。





「――先輩、竹谷より伝令。七松先輩、食満先輩が交戦中。立花先輩と中在家先輩もすぐにたどり着くそうです。あと善法寺先輩から、新薬を試して良いかと」
「構わん」
「では伝えておきます」

再び音も無く現れた兵助に驚くことなく、文次郎は淡々と言葉を紡ぐ。
元より同胞達の実力は疑っていない。すぐに収束がつくだろう。
文次郎は八左ヱ門の鷲に書簡を括り付ける黒髪を一瞥した。

「……お前は本当に尻尾を見せないな」
「……何の話でしょう」
「まだあいつらのように分かりやすく隠すのなら可愛げがあるってぇのに」

自分の方を見ることもなく溜息をつく文次郎の真意を探る兵助は、単に雑談だと判断して口元に淡い笑みを浮かべる。

「それでも先輩方が、私達を可愛がってくれていることは承知していますよ」
「そういうところが可愛くねえ」
「さっき立花先輩にも言われました」
「だろうよ」

他の六年生も薄々感付いてはいるだろうが、五年生の中で一番の策士は兵助だ。
無表情で生真面目。嘘も人付き合いも苦手で、空気も読めない豆腐狂。ずっとそんな印象を植え付けていた。狐や狸と称される三郎と勘右衛門を隠れ蓑にして、ずっと。

「たまには甘えるのも後輩の務めだぞ」
「では、明日は豆腐屋さんに連れて行ってもらうとしましょう」
「……奢らんぞ」
「ケチですね」

文次郎が兵助の本性に気付いたのはわりと最近だったりする。
火薬委員会は、今までの余った予算を溜め込んでいたのだ。会計委員会はずっと偽装書類を提出されていたと、その時初めて知った。
元々管理費や雑費で多額の金を充てがわれていた火薬委員会が、予算ゼロでやっていけるわけがない。甘酒の計上ミスは、後輩に欺かれたとバレたくない文次郎と今までの貯金をバラされたくない火薬委員会が故意的に起こしたものだった。

「まあ、明日は長次と本の買い付けに行く予定だったからな、丁度良い」
「中在家先輩なら豆腐奢ってくれそうですね」
「阿呆、先輩にたかるな」
「甘えろって言ったの先輩じゃないですか」
「お前にとってたかることが甘えることなのかバカタレ」

自由人な級長二人や直情的な八左ヱ門と雷蔵の実力を見極め、指揮出来るのは兵助だけだ。
勿論級長なだけあって三郎と勘右衛門も総指揮になることがあるが、それは組対抗の実習のみ。基本的に指揮として構えているよりも自由に撹乱するのが好きな二人は、五年生全体での演習では指揮をしないのだ。そんな二人が「自分達を使いこなせるのは兵助だけだ」と言っているのを、文次郎は知っている。そう言うだけあって、文次郎や仙蔵と組んだ時に二人には相当手を焼かされた。

「……お、骨のあるのが来たようだな」
「ぼろぼろですけどねえ」
「まあ、ここまで来れたことは素直に褒めてやろう」

八左ヱ門や雷蔵はまだきちんと言うことを聞いてくれると思っていたが、それも大きな間違いだ。二人ともどちらかといえば直情的で、何があっても見捨てる選択をしない。三郎が己を犠牲にしようとした時、二人してぼろぼろになりながら三郎を連れ帰った話はあまりにも有名だ。
兵助は、誰かを犠牲にするという選択肢を最初から視野に入れずに策を練る。

「私がいきましょうか」
「たまには俺にも暴れさせろ」
「……暴れる程骨があるとは思えませんが」
「そうだな。久々知お前、後で手合わせしろ」
「えー……」

二人の目の前には、怪我でぼろぼろになりながらも正門までたどり着いた敵の忍び。
周りの山の中では、未だに爆発音や断末魔が聞こえてくる。自分と同じように暴れ足りないのだろう。
寸鉄を構えて隣に立つ後輩に、文次郎は不敵に笑った。

「さあ、仕上げだ」








――
なんとなくうちの五年生観というか、兵助観が出来てきたような気がします。
みんな真っ黒だよ……。
だって文次郎が毎回火薬委員会が大量の予算をふんだくっていくとか言ってたのに予算ゼロとか絶対無理だろって思ったんですもん。毎回充分な額の予算を貰えてたんだろうなーと。火薬大事だもんね。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

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