つよく、つよく。

*夏休み宿題バラバラ事件






意識をなくした身体を、受け止めたのは自分だった。

今回の宿題はおかしかった。個人の実力別と聞いていたが、俺や長次のものはまるで一年生レベル。かと思えば仙蔵や小平太のものは実力に見合ったものらしく、「一年生からやり直せということではないか」と仙蔵に笑われたのは記憶に新しい。
しかし、やはりおかしかったのだ。

「久々知くんについていてあげて下さい」

新野先生に言われ、臥せる久々知の傍らに座る。
矢を受けて帰ってきた久々知は、今は熱に魘されており意識が無いままだ。
新野先生と長次は、手分けして他の生徒や教師にこの情報を伝えるために医務室を出て行った。

「……バカタレ」

静かになった医務室に、自分の唸るような呟きが響く。
まだ学園にはほとんど生徒がいない。いつもならいる五年や六年も、宿題のために学園を開けていた。
小松田さんや先生もいない。新野先生は、偶然今日の日直だったというだけだ。それは不幸中の幸いというべきだろうか。

……身体から熱が引いていくあの感覚は、久しぶりだった。

「……無茶ばかりしやがって」

肩が痛いのか顔を歪めている久々知の、額についた前髪を払う。柔らかくて指通りの良かった綺麗な黒髪も、ところどころ焦げてほつれ、あの艶やかさは見る影もない。
新野先生の許可が下りたら髪を洗ってやろうかと思ったが、タカ丸や五年連中が率先してやりそうだと思い至る。

「この程度で怪我してんじゃねえぞ、馬鹿野郎」

久々知は宿題を遂行していた。
枕元にあるのはナルト城の軒丸瓦。こんなもん、六年生レベルだ。
大きな怪我が肩の矢傷だけで済んだのは運が良かった。実力だとは言ってやらない。
冷静なくせに負けず嫌いで、俺が褒めたところで素直に受け取りやしないのだから。

「肩が治ったらみっちり鍛錬してやるから、覚悟しとけよ」
「……期待、しときます」
「、……起きたのか」

驚いて汗を拭いていた手を止める。
見慣れた長い睫毛に縁取られた黒目がちの目が、ゆるゆると俺を捉えた。

「久々知?」
「……俺、帰ってこれた……」

左手が中途半端な位置にあった俺の手に触れる。俺の顔を見て安心したように微笑むその姿に、思わずその手を握り返した。

「当たり前だ馬鹿野郎。アホなこと言ってんじゃねえ」
「……先輩」
「…………無事で良かった」
「! 。」

久々知は目を見開いて、複雑そうに視線を逸らす。自分でも驚くほど、俺の声は安堵に満ちていた。
思ったよりも心配していたらしい。俺も大分重症だ。

「せんぱ、」
「もう無茶はするなよ」
「……善処します」
「……っとに可愛くねえな」
「先輩に嘘は吐きたくありませんから」

触れている手は熱い。久々知の額を伝う汗を拭きながら、やっぱり新野先生の許可が下りたら髪は俺が洗おうと決めた。











――
文くくと言い張る。たぶん付き合ってるんじゃないでしょうか。いやでも割と甘めのはず。(当社比)
宿題のあれ、兵助のって文次郎のじゃね? と滾ったので。文次郎と長次はずっと学園にいただろうし! とすると喜三太は長次のだったのかなあ……。

付き合ってても、先輩と後輩としての矜持は消えないと良いです。お互いに大切だから守りたいけれど、簡単に守られたくはない。文次郎は兵助に無茶をしてほしくないけど、その気持ちも分かるので強くは言いません。だから早く自分のところまで来いと。でも自分で思ってたよりも心配しちゃってました、な話でした。
つよく、は実力でもあり精神でもあります。
この二人は自分の感情に関してとても不器用そうなので、ふとした瞬間ぽろっと弱音を言って今の無し忘れろおおってなってたら良いですお互いに。どことなく似てるような気がします。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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