冬の晩に




冬真っ只中の委員会活動は結構辛い。屋内でやる委員会や、体育や生物のように体を動かす委員会はまだマシだろう。
しかし、用具倉庫の中に籠もりっぱなしで修理していると、どうしても手足が冷えてしまうのだ。

「さっむ……」

すっかり日も暮れ、下級生は眠りにつくような時間。先に後輩達を帰した俺は、ついさっきまで一人で残りの仕事をしていた。
さすがにこのクソ寒い中、下級生をこんな時間まで残させるわけにはいかないからだ。

にしても、今日は一段と冷える。さっさと風呂入って寝よう。
そう思いながら長屋への道を急いでいると、半纏と首巻きを巻いた後輩の姿を視界に捉えた。

「……久々知?」
「……食満先輩。お疲れ様です」

くるりと振り返った久々知は首巻きだけの俺より温そうな格好なのに、全然温そうに見えない。
方向は一緒なので、並んで歩く。

「お疲れ、お前もこんな時間まで委員会か?」
「新しい火薬を仕入れたので今日は仕事が多くて」
「後輩は?」
「……たぶん、先輩と同じですよ」
「タカ丸は?」
「あれも後輩ですから、一応」

一応って。
ばっさり言い切った久々知に苦笑しつつ、自分と同じように先に後輩達を帰したと知って苦労してんなあと思う。
焔硝蔵は火気厳禁だし、窓もない。暗くて寒い中を一人黙々と作業するなんて、考えただけで結構辛いものがある。昼間でも一年生なんかは一人で入るのを怖がるくらいだ。

「お前、風邪引くなよー?」
「お互い様ですよ」
「んなこと言ってもお前、うっわ冷た!」

ぺたりと真っ白な頬に触れれば、思っていたよりも冷たくて驚く。冷えていると思っていた自分の手が温く感じる。半纏に首巻きでこんな冷たいって、どんだけ寒いんだ焔硝蔵。

「ちょっ、もー、なんなんです突然」

それが分かっているのか、久々知は自然に俺と距離をとる。あまり触ってほしくないらしい。だが、こんなに冷えきっている後輩を放置することも出来ないのが俺の性分なわけで。

「え、ちょっと先輩、」
「これでちょっとはあったかくなんだろ」
「むしろ先輩が冷えますって」

氷のような冷たさの手を、両手でぎゅっと握りしめた。
困ったような、戸惑ったような表情の後輩に笑いながらはぁ、と息をかける。一向に温くなる気配はないが。

「うわあ、芯まで冷え切ってんなあ」
「そりゃ、あんだけいれば。ていうかほんと先輩の方が冷えるんで離して下さい」

俺の手の中から自分の手を引っこ抜こうともがきながら俺の心配をしてくれる久々知に思わず笑みが零れる。

「気にすんな、俺がやりたいだけだ」
「いやでも、」
「先輩命令。大人しくしなさい」
「……なんですか、それ」

茶化すようにそう言うと、ずっと無表情だった久々知の表情が漸く綻んだ。ふわりと白い息が舞う。

その姿に。

「……」
「先輩?」
「……あー、いや、うん。また冷えたら俺んとこ来いよ、あっためてやるから」
「ええ?」

その姿に、見惚れてしまった、なんて。

「……ありがとうございます」
「、おう」

そんなことは絶対に言わないけれど、きっと俺はまたこうして久々知を暖めてやるんだろう、と思った。



後日。

「……久々知は手強いよ?」
「おまっ、なんで知ってんだよ伊作!」
「いやあ、あんなところで堂々と手を握ってりゃあね」
「……! お前近くの穴に落ちてたろ!」










――
食満くく? 食満+久々知?
私が書くとどうしても未満になってしまう。甘いの書けない。
でもわりと、未満のくせにカップルみたいな距離感って好きです。凄くひっついてるのに会話の内容は実習の話とか。そしてどっちも当たり前だから照れることもなく、みたいな。ていうかうちの兵助は男前受け推奨なのでなかなか可愛い反応してくれない。さらっと好きとかかっこいいとか言って周りの攻めを赤面させちゃえばいいんだ。そして更に好かれちゃえばいいんだ。この天然男前豆腐め!

ではここまで読んで頂きありがとうございました!

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