これが日常

*キャラ崩壊







昼飯を食べている時、三郎か雷蔵以外の五年生四人が食堂へ入ってきた。
一人いないのは珍しいなあと思いながらなんとはなしに目で追っていると、ドタバタと小平太のような勢いで走ってくる音が聞こえてくる。

「てめえらあぁあぁああぁあ!!!」

次いで怒号と共に久々知が入ってきた、直前に他の五年生はしゅばっと盆を持ってどこかへ逃げていった。
どうやら四人でいた久々知は三郎だったらしい。



これが日常



「久々知、またあいつら実習中にふざけたのか?」
「悪戯でもされたか」

小平太に続けて苦笑交じりに問えば、漸く俺達に気付いたのかイライラしている様子を隠しもせず近寄ってきた。
そして俺のお茶をぐいっと飲んで、だんっと机に置く。
……喉が渇いたならおばちゃんに貰えよ、と思いつつ、お茶を淹れ直す。

「よりによって……俺の、顔で、豆腐代を計上した予算案を、潮江先輩に渡しやがりました……田村とかならまだなんとかなったのに、よりによって潮江先輩に!」
「「……ああー……」」

つまり会計委員会に堂々と喧嘩を売ったわけだ。しかも五年生四人が結託して。
火薬委員会は甘酒代のせいで今期は予算ゼロにされたから、二期連続ゼロだと結構死活問題だ。簡単に言えばやばい。

「ま、まあ、文次郎もお前のことは信頼してるしさ、お前じゃないって分かったら予算案の組み直しもさせて貰えるんじゃねえか?」
「そ、そうだな。説明してみたらどうだ?」
「甘いですよ、先輩方……。相手は潮江先輩ですよ? 『計画された段階で気付け』って追い返されましたね。ふっ、今期も予算ゼロ確定ですよ。いや俺は良いんですよ、六年生の理不尽な扱いには慣れてます、俺はね。でも後輩達に無茶をさせるのがどんっだけ心苦しいか。ただでさえあいつらには気を張らせて休ませてもやれないってのにああああああもおおおお」
「お、落ち着け久々知……」

だいぶ情緒不安定だ。頭を抱えて座り込む久々知に、小平太もおろおろしている。とりあえず六年生が理不尽どうこうの言葉は聞かなかったことにしておいて、落ち着かせることを先決しよう。後輩に無茶をさせることの心苦しさは俺にも分かるし。

「まあ、もう一回文次郎に頼んでみようぜ。俺も頼んでやるから」
「おお、私もついて行ってやろう」
「食満先輩……七松先輩……!」
「「貸し一つな」」
「チッ」

当たり前だ、勝手に俺のお茶飲んでおいて。

「ああもう全部あいつらのせいだ……!」
「それでもちゃんと叱ってやる久々知は偉いと思うぞ、私」
「ふふ、知ってますか七松先輩……。叱らなかったら、一日に何度も悪戯仕掛けてくるんですよあいつら……ははっ、もう心折れそう……」
「お、重いなお前」
「が、頑張れ久々知」

俺の前に座り、机に突っ伏す久々知からは悲愴感が滲み出ている。おいやめろ、下級生に俺らがなんかしたみたいに思われるだろうが。
ていうか髪がばさってなってて怖い。

「おい久々知、他の五年が長屋で飯食ってたけどなんだあれ」
「潮江先輩!? 五年のことより予算案の組み直しを! 組み直しを検討してくださいいいい!!」
「うわなにこいつ怖い」
「すげえ反射神経だなー」

がばっ! と起き上がった久々知は、話しかけてきた文次郎に土下座せんばかりの勢いで頼み込んでいる。
小平太は明後日の方向を向いている。あ、こいつもう庇う気無いな。

「三郎達が悪戯したんだろ? まだ締め切りまで時間あんだし予算案の組み直しくらいさせてやれよ」
「あのなあ……」

ぶんぶんと縦に首を振る久々知の隣で、文次郎は溜息を吐く。

「お願いしますよ先輩……! 伊助と三郎次が溜息を吐く姿は胸にこたえるんですよお……!」
「う、それは辛い……」
「しっかりしてるもんな、火薬……」
「待て、斎藤はどうした」
「あのバナナが! いらんことして! 更に出費を増やすから!!」
「落ち着け、頼むから落ち着け」

下級生がうわーって顔してこっち見てるから。俺らが悪いみたいな顔されてるから。

「今期まで予算ゼロになったら本気でやばいんですって!」
「ああもう分かった、分かったから」
「組み直させてくれるんですか!?」
「ああ、仕方ねえな……ったく」

文次郎が下級生からの視線に負けた。
だが、ほっとする久々知に文次郎はにやりと笑う。

「貸し一つな」
「……!」

その人の悪い笑みに久々知は一瞬悔しそうな顔をして、ギリッと奥歯を噛み締めたと思えばまた俺のお茶を飲んでだんっと机に置いた。
だから湯のみ貰えってば。

「……先輩方、いろいろとありがとうございました。私はこれからあいつらを締めてきますね。失礼します」
「お、おお……」

だがそれで吹っ切れたのか、ふわりと下級生に向けるような笑みを俺達に向け、久々知は淡々とそう言って席を立った。
その後ろ姿は鬼気迫るものがあり、きっと表情も恐ろしいものになっていたのだろう。通りすがった四年生が久々知を見た瞬間逃げた。

「許すまじ……」

その言葉を最後に、久々知は食堂から消えた。

「……なんだ、めちゃくちゃ怖かったんだが」
「私達にも借り出来ちゃったからな。まあ今回は五年が悪いよな」
「予算系の悪戯はなあ」
「じゃあ珍しく久々知に謝りすがる五年が見れるかもな」
「ああ、あれちょっと面白いよな! なんか飼い主に構って欲しい犬みたいな」
「的確すぎるぞ小平太」

この時はそうやって笑っていたが、その後五年長屋を見に行くと本当に久々知に謝りまくる五年がいて。
無視し続ける久々知にしゅんとなる様子は本当に犬のようだった。

まあ、これが五年だよな。










――
楽しかった。
たまに書きたくなる、病気学年と常識人六年。五年生に振り回される六年生が楽しい。
余談ですが、五年生が兵助に悪戯するのは、兵助は毎回きちんと叱ってくれるからです。特に三郎はそれで自己確立させてるところがあって、その辺掘り下げてまた書きたいと思ったり思わなかったり。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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